第4章・サファリス国の大雨災害

103 災害は突然に

 シヴァ(本体)が小冊子の自動販売魔道具の結界コーティング作業に戻ってしばし後……。


【マスター。アーコです。サファリス国からエイブル国にそれぞれ違う場所から入った早馬が三組もいて、ただ事じゃない様子だったので監視しておりましたが、理由が判明しました。長雨による被害が甚大で支援を求めてのことでした。更に詳しい情報収集にレイスを放っていいですか?】


 アリョーシャダンジョンのアーコからそんな連絡が入った。

 一番移動が速いのがレイスだ。大した戦闘力はないが、実体はないので。ダンジョンの外の活動だが、アーコの使い魔なので問題ない。


「おう、よろしく。でも、長雨ってどのぐらいの日数?」


【一週間は降り続いているようです。かつてない大雨で河川は氾濫、土砂災害も酷い、何かの呪いでは、と話していました】


「そこまで威力がある呪いってあるのか?」


【呪いでは無理だと思いますが、水系ドラゴン数匹なら可能でしょう】


「ちょっと待て。サファリス国の北、エイブル国の北東にまたがる山ばっかのカウラナ王国に、ドラゴンの巣があるって話だったよな?縄張り争いで追い出されたのか?」


【可能性は高いですね。偶然とは思えませんし】


「ま、何が原因にしろ、被害の酷い所に転移ポイントを置いてくれ。コアバタたちと一緒に救援に行く」


【かしこまりました】


「アカネ、災害救助、手伝え」


【え、どこで?】


「サファリス国。エイブル国東。大雨の長雨一週間で河川は氾濫、土砂災害も酷いらしい。サファリス国から何組も早馬が出て、アーコが気付いたんだけど。今、先行して使い魔のレイスが情報収集中。水系ドラゴン数匹の仕業の可能性あり」


 シヴァはエレナーダダンジョンの58階にいたアカネを一旦、キエンダンジョンのダンジョンマスターフロアに引き寄せた。

 レイスが転移ポイントを置くまで、シヴァとアカネは食料、救援物資の取りまとめをする。

 同時にシヴァは分身をもう三人出して八人にし、共に炊き出しを錬成でサクサクと作って行く。サファリス国でももう秋で、長雨なら気温も下がっているだろう。

 キエンダンジョン内にいる限り、分身の魔力はまったく問題ない。

 ダンジョン内魔力ももらえるので。

 ついでに、オーブや魔力タンクに魔力を溜めて行く。コアバタたちにも魔力が必要だ。


「王様に救助隊を要請して連れてったら?物資はあっても人手が足りないよ。現地の人たちは疲労してるだろうし」


 アカネがそう提案した。


「空間転移が使えることをバラせって?まぁ、口止めしとけばいいにしても、大人数だとさすがに魔力が…いや、眠らせて影収納に入れてけばいいか」


「…あ、その手があったね!影収納ならわたしの方でも大丈夫だよ。でも、一国の救助、支援だと負担がかかるし、後々サファリス国の立場が悪くなっちゃうんじゃ…」


「ラーヤナ国にも救援を出させる」


 エイブル国はテレストの通信バングルに連絡して任せ、ラーヤナ国には分身の一人をアルに化けさせて行かせた。テレストから連絡があって、という体裁である。


 【冒険の書】のおかげで、行ったことのないサファリス国でも地図が分かっている。

 街に近い大きな川がある場所が氾濫しているのだろう。街を作るのなら盆地なので、どうしてもこういったことは起こる。

 まして、河川の整備なんてロクにしてない国ばかりだ。


「ねぇ、シヴァ。冒険者ギルドももう動いてるんじゃないの?連携しなくていいのかな?」


「動いていたとしても、通信魔道具で連絡が出来るだけだぞ。他国に救援を求めても到着までに時間がかかる。それに、他国にいる冒険者は簡単に動かせねぇ。ダンジョンに潜ってたり、護衛依頼で不在とかしょっちゅうだろ。通常の仕事が出来ねぇ現地の冒険者たちの指揮権はSSランク冒険者にあるから、上手く使うさ」


「シヴァの分身の方が遥かにお役立ちだろうけど。空間収納にあふれてる川の水をたっぷり収納したら取りあえず、氾濫は大丈夫じゃない?で、土魔法で固めて」


「ああ、それも考えてる。もし、水竜がマジでいたら、ドラゴンスレイヤー様に頼むかな」


「…え、わたし?ライフルで撃ち落とせばいいだけ?」


「おう。もちろん、それでいい。安全第一で。変な所に落ちそうならマジックバッグに入れればいい。大きくても一匹なら入るだろ。無理なら問題なさそうな所にぶん投げるか、蹴り入れて」


「…何の話か分からなくなって来るね。シヴァ、簡単に言うし」


「ドラゴンブーツがあるだろ。キック力三倍の」


「あっ!そうだった!」


「何ならドラゴングローブも貸してもいい。剛力付与。…っつーか、アカネにプレゼント。かなり忘れてた死蔵品だし」


 そういえば、と今思い出したシヴァは、はい、とアカネに渡した。剛力付与で何倍、というものじゃない。ファンタジーアイテムでよくある、いわゆる「パワーグローブ」である。


「ありがとう。シヴァだと使う機会ないもんね。…っていうか、わたしの役目が狙撃なら、他の人に貸した方がはかどるんじゃない?…あ、マズイか」


「そう、マズイ。簡単に人が殺せるマジックアイテムだからな。…あ、キーコ、認識阻害の仮面を作って。視界を妨げず落ち難く鼻から上ので。八枚」


【かしこまりました】


「分身用?」


「おれのも。どれが本体でしょう、ってことで」


「魔力の多さでバレバレじゃないの?」


「オーブを使うから魔力も本体と大差なし。今のうちにそれぞれ違う服や装備を作ってるし。言うまでもなく」


 同一人物なので。


「本体はゼロ・シヴァ。分身はイー、ロー、ハー、ニー、ホー、へー、トー、で伸ばす。愛称だと思ってくれるだろ」


 認識阻害仮面がすぐ出来たので、それぞれ身に着けた。

 仮面を着けていることすら認識出来ず、顔立ちはよく思い出せない、という感じになる。よしよし、希望通り。

 端から順番に名付け、シヴァ本体が分身たちにステータス隠蔽をかけた。レベルはそう高くないので、鑑定スキルや魔眼を持っていたら【シヴァ(分身)】と見えてしまうので。


「分かり易過ぎ!…あ、でも、それは日本人だけか」


「だろ。生産特化の分身だからドラゴンは手に余る…ことはねぇか。魔法使えるし。まずは重傷者の治療、要救助者がいるんなら同時に。その後、ポーション配り、避難場所作り、炊き出し、ドラゴンがいるんなら、アカネはまず狙撃。元凶討伐は最優先」


「了解」


「コアたちは炊き出しや救援物資の作成、コアバタはいつものように隠蔽して行動、避難民たちの誘導、被害状況の把握、転移ポイントを置いてもらい、救援隊のサポートも、といった感じだな。どれだけ救援物資を提供したか、何の物資が足りなかったのか、の記録はちゃんと取っておくように。今後の参考になるから」


 シヴァはコアたちには通信バングルで、集まって来たコアバタたちにはそう指示を出す。

 後、必要なのは雨よけアイテムか。普段はアクティブ結界でいいが、少しでも魔力を温存するため、魔力を使わないマジックアイテムをコアたちに用意してもらった。

 まんま【雨よけリング】である。



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