104 大雨災害はやはり下位水竜の仕業!
三時過ぎ。
程なく、アーコの出した使い魔レイスたちが情報を送って来て転移ポイントを置いたので、シヴァが一番被害が酷いサファリス国西部、セプルーの街に空間転移した。
魔力節約で、アカネと分身七人とコアバタたちは影収納の中だ。
転移した所は少し丘になっている所で、眼下には建物の一階半ばまで浸水し、いくつかの家が流されて行く、水の勢いで崩れて行く様が見えた。
土地自体、水はけが悪く土地が低い地域らしい。
危険はなさそうなので、茜たちを影収納から出す。
「ここまで来ると
「確かに。イーからホーの分身五人は救助活動、へーとトーはおれとアカネと一緒に治療。コアバタたちは避難場所探索。各自の場所でも要救助者がいたら助けといて」
コアバタたちの魔力は取りあえず、温存ということだ。
「了解」
『了解しました』
シヴァたち治療班は怪我人や病人がいる大きい天幕へ入った。
「SSランク冒険者のシヴァだ。救援に来た。連れて来た者は回復魔法が使えるし、ポーションも豊富に持っている。重傷者から治療して行くから場所を開けてくれ」
え?え?え?誰?という顔をした人たちはスルーし、土砂に埋まったのか、流されてぶつけたのか背骨をやられて虫の息の重傷者からシヴァは診て行く。
スキャンのように身体の内部を
整復するのに痛みを伴うので【スリープ】で深く眠らせてから治療した。高熱はポーションを飲ませれば、ある程度までは下がる。
アカネがポーション類を持参のテーブルに出し、近くの人を使って軽傷者に配って行く。
建物の倒壊や土砂で手足を潰された怪我人も多かったので、そちらは分身たちと一緒に個別に治療。だいたい治療した後は、【エリアヒール】で一気に治し、【クリーン】と【浄化】もかけ、身体も乾かしておいた。
役人や騎士や兵士も動いてはいたが、ここまで大規模な災害は初めてらしく、領主や国の指示も二転三転、橋も流されて渡れず、土砂崩れで道も通れず、現場も右往左往していて一週間経ってようやく、高台に避難場所を作り始めた有様らしい。
情報が
天幕を出してその中の机の上に炊き出しの玉子かゆ鍋、水樽、食器類、毛布、服、靴その他消耗品の救援物資を置き、皆で分けるように言い置いてから、シヴァたちは怪我人病人、要救助者を探して移動した。
この大雨の原因が判明した。
やはり、水竜の
シヴァの探知魔法に三匹ひっかかったので、アカネはそこへ転移で送り出した。
これだけ迷惑をかけているのだから、問答無用で殺されても文句は言えない。
…というか、水竜と言っても下位種なのでそこまでの知能はない。
人間を困らせてやろう、ではなく、雨を降らせた方が体調いいし、程度のことだろう、どうせ。
歴史上でもその程度としか思えないようなことを、やらかしているのが下位水竜である。
ちなみに、シヴァの人工騎獣風竜は上位種なので、フォルム自体が違っている。下位種は更にでかくした大トカゲっぽく、角はなく、ヒレっぽいのはある。
雨が吹き込まない雨漏りがしないちゃんとした避難所も避難場所もなかったせいで、濡れている人たちが多かった。そのせいで肺炎にかかっている人たちも多い。
そこで、シヴァは新しい魔法を開発した。
【細胞壁除去】である。
人間の細胞は元々細胞壁はないが、細菌には細胞壁がある。なので、細胞壁さえ、何とかすれば、細菌は死滅し、人体にはまったく影響がない。いわゆる抗菌薬である。
肺炎の原因の大半は肺炎球菌なので、さぞ効果的だろう。
抗菌薬のもう一つのアプローチは、細菌がタンパク質を作ろうとするのを邪魔する方法だが、細菌が作るタンパク質だけを薬で邪魔する、と限定するのが難しいため、今後、要研究だった。
肺炎はウイルス性のものもある。
ウイルスは人間の細胞にくっついてウイルスを増やすので、抗ウイルス薬は細胞にくっつくのを阻害するか、ウイルスが増えるのを防ぐものになるが、ウイルスによって実に様々で効く薬を作るのが非常に難しい。
インフルエンザウイルスやコロナウイルスが蔓延してしまうのはそのせいだ。
しかし、魔法のあるこの世界では、ウイルス特定さえ出来れば、除去出来るのではないだろうか。
細菌よりかなり小さいウイルスでも、超高性能な【魔眼の眼鏡】ならウイルスも
まぁ、今回の肺炎患者たちはウイルス性の人はいなかったので、こちらも今後、要研究だった。
そういった知識を踏まえて、シヴァが回復魔法を使ってみた所、大成功。元は同じなので分身も【細胞壁除去】をすぐ覚え、治療効率がかなり上がった。
******
アカネがさくっとスムーズに三匹の下位水竜を討伐すると、雨がやんだ。
さすが、ドラゴンスレイヤー。無駄な時間は使わず、手際もいい。
アカネから回収要請があったので、シヴァ本体が死体回収に行った。
横っ腹に大穴が空いてる水竜が一匹、首を
「ご苦労さん。さすがアカネ。しっかり確実に仕留めたな」
「ちょっとスプラッタな所があるけどね。燃やしとく」
内蔵が吹っ飛んで、その辺に点在してしまったらしい。
「おう。こっちの治療はほとんど終わり。後は炊き出しともっとちゃんとした避難所、それから仮設住宅だな。早く対応しねぇと不衛生さと寒さから、また病気になる。てっとり早く領主の館を占拠するか」
そう遠くない高台に領主の館があるのだ。
「…うん、確かに手っ取り早いとは思うけど、まずは交渉しようよ。避難所に使うよう準備してるかもしれないでしょ?」
「残念でした。そんな善人でも有能でもなかった。領庁舎も狭いし、やっぱ、仮設住宅を建てるしかねぇな。領主の館に重傷者の病み上がりを集めて間借りするのは前提として」
怪我も病気も治したとはいえ、体力がまだないため、安静が必要なのだ。
では、シヴァ本体が領主の館に交渉に出向き、床や壁の尊い犠牲により承諾させたので、強制的に部屋を空けて、コアたちが作ってくれた二段ベッドをコアバタたちと共にさっさと設置して行った。
床と壁はさっさと直している。証拠隠滅ではなく、実用的な問題である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます