100 みみずののたくりのような難解言語ではないものの
翌日。
朝食ももちろん丼だが、さっぱりとローストポーク(オーク)丼、目玉焼き載せにした。
スープは芋煮風味噌汁。里芋、ごぼう、こんにゃく、にんじん、揚げ、うさぎ(ホーンラビット)と豚(オーク)の肉団子だ。
うさぎ肉はアルが使うのを忘れていたものだが、時間停止のマジックバッグなのでまったく問題ない。
「…美味かった…すごく」
一口食べて感想を、などと誰もせず、がつがつ食べて、食べ終わってから満足な吐息と共に呟く冒険者ばかりだ。
アルは食後に冷たい麦茶をサービスしてあげる。
「この美味かった卵ってコカトリスとか言わないよな?」
「ランニングバード。アリョーシャダンジョン8階。卵だけじゃなく、肉も羽もドロップするし、ワイルドカウもいるから人気のフロアだな」
「アリョーシャか…遠いな」
「そ、そんな高級品だったのか」
「マジックバッグがねぇと持ち帰るのが難しい上、エレナーダに入って来てるのが少ねぇから、高級品になっちまうワケだな」
目玉焼きはアルが鉄板を出して一斉に焼いていた。
さて、冒険者を送り出した後は外の立て看板を変えて、昼メニュー。
今日の日替わり丼は角煮丼とミネストローネだ。
和プラス洋だが、気にしない。気にするのは栄養バランスだけでいい。
魔道具圧力調理鍋のフル活用で、とろっとろに柔らかく、煮卵が脂っこくないギリギリをキープする逸品だ。
今日はアカネは売り子をせず、エレナーダダンジョン攻略に乗り出していた。
レベル100オーバーのアカネには物足りないと思うが、まぁ、51階以降はフィールドフロアで60階まであるし、59、60階は砂漠フロアなので、それなりに楽しめるだろう。
今日はアリョーシャダンジョンは『どんぶりやさん』はなし。
パラゴとエレナーダだけにし、アリョーシャ担当だったにゃーこ四匹は二匹ずつ振り分け、五匹ずつになっている。
アルは自宅ダンジョンに帰るとシヴァに戻り、『識字率アップ計画』をちゃんとした計画書にまとめた。
国がやらないと一部だけでは何ともならないが、予算は限られている。
なので、『にゃーこや』が全面バックアップし、学び舎の建物や内装、教材作成はにゃーこやで。国営の印刷工場を立ち上げてもらい、中の機械はにゃーこやレンタル、売上からレンタル費用を返してもらう。従業員は国で募集。相場通りの給料支払いも国。資金提供はにゃーこやが行う。
また、教科書と筆記用具は安価で販売。それすら買えない人には将来払いで。
誰でも気軽に学べるよう教科書と筆記用具の自動販売魔道具を作成。
街頭モニターで教科書を元にした授業を流すのもいいだろう。足し算引き算はもちろん、九九ぐらいまでは教えたい。騙されないようにするために。
最初は週一回。人数が多くなれば、放送回数を増やして……。
「…ダメだ。ここまでやるのはおれの仕事じゃねぇ」
国の仕事だし、便利な魔道具を気軽に使うと依存され過ぎる。…まぁ、もうその兆候ありだが。
「ちょっとコアたち、相談に乗ってくれ」
一人で考えていても煮詰まるので、シヴァは通信バングルでコアたちに相談してみた。リモート会議程、情報は必要じゃない。
色々話し合った結果、時期尚早、ということになった。
国が動くべき所なのに、資金提供して無理矢理進めてしまうのは、役人たちの自主性を奪うことになるし、他の仕事もあるのだからしわ寄せがどこかに出る、と。
シヴァも分かってはいるのだが、最初が強制単身赴任転移だっただけに、いつまでこの世界にいられるのかも分からないので、その焦りもあるのだろう。半端になってもきっかけにさえなれば、色々と事態は動くので。
問題なさそうなのは、冊子の自動販売魔道具の設置だ。
マジックバッグを使わなくても、お金は影収納の中に落ちるよう魔法陣で設定すれば、相当の影魔法の使い手じゃないと盗めないし、回収も人に見られなくて済むし、容量もたっぷりだ。
在庫もそのまま自動販売魔道具に入るだけの量にすれば、コストもかなり低く出来る。結界でコーティングするのでそれこそ厚紙でもいい。軽いので杭打ちは必須になる。
冊子は読み書きの教科書、計算の教科書、料理レシピの三種類。
冊子なので薄い本になる。
…豆本でいいかもしれない。文庫本サイズのA6の更に半分A7サイズで。A8まで行くとクレジットカードよりも小さくなるので、返って扱い難い。
紙を作るマジックアイテムも製本するマジックアイテムも既にあるので、業務用プリンターを作る必要はない。人間にやらせないのなら、一足飛びに作れるのだ。さすが、魔法のある世界で。
後は冊子の内容。
料理レシピは作ってあるので、写真やイラスト付きにするだけでいい。
計算も果物や肉のイラストで分かり易く出来るだろう。
問題は読み書きの教科書。
【多言語理解】スキルのせいでシヴァにはよく分からないのだ。オフにしても、もうバッチリ読み書きが出来てるワケで……。
どうやって教えるのが一番いいのだろうか。
初級学校の教科書はとっくに入手しているが、全然参考にならない。
ワザと小難しく分かり難く書いてるのだろうか?と疑うぐらいに、分かり難い。
何でも権威ある先生が書いてるので評判が悪くても変えられない。生徒たちはそんな教科書には頼らず、何とか文字を覚える状態だそうで。
そこから是正しないと、識字率はいつまで経っても上がらないのに。
それはともかく、何とかサンプルを作って、文字の読み書きが出来ない人に見てもらうか。
日本語程、難解な言語ではないので、覚えるのはそう難しくないハズだが、当然、元々の頭の出来が左右する。
短時間で覚えるか、長いことかかるか、の二択でアラビア語のごとくみみずののたくりで、どこまで一文字なのかすら分からない程難解言語ではないのは救いか。
…というワケで、アルに化けてやって来ましたエレナーダ冒険者ギルド。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます