第百五十四話 そして秋は暮れる


「…………わかりました。息子、リヒャルトを奴隷としてエルミライト鉱山へ送ることを了承しましょう」


 表情一つ変えず、感情の起伏もない。

 実の息子を切り捨てる判断をしたというのに、ヘロミア・オータムリーフはあくまで平坦に言い放った。


 冷酷な判断だが、床に四つん這いになったバーゲンよりはよほど公爵家の当主らしくはある。


「お、お前! 実の息子が可愛くないのか!」

「アナタは黙っていて下さい」

「だ、だが……わかっているのか! あの鉱山の死亡率が年間どれくらいあるかを……一年、下手すれば三ヶ月も保たないのだぞ!」

「ええ、十分理解していますとも。ただでさえ魔法……いえ魔力すら禄に使えないいまのリヒャルトでは、一ヶ月保つかどうかも怪しいということも。ですが……アナタこそこの状況を本当に理解しているのですか?」

「くっ……」


 有無を言わせぬ迫力。

 やはり奥方たるこの妙齢の淑女こそオータムリーフ公爵家の真の支配者か。


 というかバーゲンはもう心が折れてるな。

 そうでなくともヘロミア夫人には頭があがらないと見た。


 そんなヘロミア夫人は夫を一蹴した鋭い眼差しのまま僕に視線を向け断言する。


「ヴァニタス・リンドブルム様、そのうえで敢えて申し上げます。――――領地の割譲かつじょうは認められません」

「ほう……どうして?」


 宰相からの反応はない。

 成り行きを見守るということか。


「賠償、これは良いでしょう。リヒャルト莫迦息子の仕出かしたことをわたくし共としても反省しております。公爵家として十分な金額をお支払いするとお約束しましょう。勿論、リヒャルトがご迷惑をお掛けしましたヴァニタス様のご友人にもしっかりと金銭にてつぐなわせていただきます」

「…………」

「ですが、それと領地の割譲は無関係ではありませんか? 確かにわたくし共はリヒャルトの監督教育に失敗した身。しかし、我らは魔法総省の調査も受け入れると言っています。隠し事なくすべてをつまびらかにすることに協力を惜しむつもりもありません。なのに……あまりに一方的な裁定では?」

「うむ……」


 もはや蚊帳かやの外に追い出されたバーゲン現当主とは違う。

 断固として拒否してきたな。


「アウグスト様」

「何でしょう?」

「国家反逆罪とはまだ疑惑の段階なのですよね?」

「ええ、確信に足る証拠は出てきていませんので」

「オータムリーフ公爵家のこれまでの貢献をご考慮いただけるとのこと。……まことですか?」

「勿論。ヴァニタス殿の裁定次第な部分もありますが、私としては考慮すべきと考えております」

「我々はこれまで帝国の食料事情を支えてきました。何年も、何十年も」

「わかっておりますとも。オータムリーフ公爵家の貢献は今日こんにちのルアンドール帝国の発展には欠かせない存在です」


 宰相もおべっかが上手いな。

 だが、まゆ一つ動かさずにいってもお世辞には聞こえないぞ。


「ところで帝都でもそろそろ収穫祭が行われる季節。……オータムリーフから国庫に納める穀物の量を例年の倍にいたしましょう」

「それはありがたい」

「ですが、これは我々がオータムリーフ公爵家として拝領はいりょうした領地をしっかりと治めているからこそ出来る芸当であることをお忘れなきよう。わたくしたちは独自の配合で肥料を作成し、作物の収量を上げるよう長年努力を続けてきました。結果として収量は微量ですが年々増加傾向にある。そして、これらは一朝一夕いっちょういっせきで手に入るような技術ではありません。……割譲を認めた場合、その土地で以前と同じ収量を望めるかといえば異なるでしょう」


 まるで、これも考慮に入れて欲しいといいたげだな。


 実際土地を割譲して皇帝直轄地とした場合、農作物の収量は確実に落ちるだろう。

 言い分としては理解出来る。


 そういえばリヒャルトも収量増加のための肥料作りには一枚噛んでいたという。

 真っ当な方向に自称天才の才能とやらを生かせればな。

 もう遅いが。


「取り上げられた、おっと失敬。献上した土地では公爵家独自の技術は使えない、そうおっしゃりたい訳ですね」

「……我々の秘術たるもの。おいそれと明かす訳には参りませんので」

「いえいえ、当然のご主張。帝国は各貴族家の権利を無闇むやみに侵害いたしませんから」


 宰相は公爵家オータムリーフを潰さない。

 わかっていた弱点ウィークポイントだが露骨ろこつに突いてきたな。


「ところでアウグスト様。……何故アナタ様はこちらへ?」

「ヴァニタス殿の要請によってです。ゼンフッド帝立魔法学園の生徒たちを襲った無為混沌の結社アサンスクリタなる秘密結社。襲撃による被害を最小限に抑えられたのはヴァニタス殿の功績。これを対価として仲裁役兼裁定の見届け人を頼まれました」


 宰相はヘロミア夫人へとこの場に現れた経緯を説明する。

 黙って耳を傾ける夫人はコクリと頷き目を細めた。


「……失礼ながら帝国宰相たるアウグスト様を動かすには功績を対価としても少々余りあるのでは?」

「それだけヴァニタス殿の行ったことを評価していると受け取っていただければ結構。事は有望な帝国の子供たちの将来に関わってくることです。騎士たちに犠牲は出たものの、彼ら、彼女らを守り抜いたことは高い評価を受けて然るべきかと。それに、この一件には帝国第四皇女ラゼリア・ルアンドール様も関わっています。ラゼリア様は大層ヴァニタス殿のご活躍を褒めておいででしたよ。何せ事前に警鐘けいしょうを鳴らして準備していたのは彼一人だけだったのですから」

「…………なるほど、話は変わりますが今回の一件、無為混沌の結社彼らの目的が何だったのか判明しているのでしょうか?」

「それは……」


 宰相が言い出す直前、ヘロミア夫人は僕へと視線を移す。


「ルアンドール帝国を将来担うことになる子供たちを殺す、これも目的の一つとしてはあったでしょう。しかし……貴族たちの間ではすでにとある噂がささやかれています。先の皇帝直轄地、封印の森での邪竜復活騒動の延長。つまり今回の踏破授業襲撃事件はヴァニタス様、アナタ様を狙ったものだったと」

「……ほう?」

「勿論そこにリヒャルトの責任がなかったとは言えません。接触があったと言われればあったのでしょう。ですが、同時に今回の襲撃事件はヴァニタス様、アナタ様のせいで引き起こされた、こう考えることも出来るのでは?」


 ……リヒャルトから連中の目的を聞き出していたと。

 自分たちの息子が無為混沌の結社アサンスクリタと関わりがあったことは棚に上げて僕の責任をほのめかすとはな。


 だいたい噂とやらも怪しいものだ。

 ヤツらの目的を知る者は幹部連中を除けば少なかったはず。


 なのにすでに噂話として流れている?

 帝国に未だ蔓延はびこる結社の連中が流したか……もしくは、ヘロミア夫人コイツがこっそり裏で手を回していたか、どちらでもおかしくはない。


「…………」

「沈黙は肯定と受け取っても?」

「ヘロミア殿、私も貴族の方々の間で細々とした噂が流れていることは存じています。ですが、ヴァニタス殿の功績はラゼリア皇女殿下も認めるものですよ。邪竜復活の際の現場にはかの御方もいらっしゃった。グラニフ砦の騎士たちもヴァニタス殿に助けられた立場。ヴァニタス殿の活躍を支持するでしょう。それを疑うというのはいささか……」

「勿論わたくしもすべてがヴァニタス様の責任によるものとは考えていません。襲撃は様々なことが偶発的に重なった結果なのかもしれない。ただ、リヒャルト一人の責任ではない可能性も御一考ごいっこういただきたいと提案しているだけです」


 疑わしき部分のある僕では裁定者に相応しくない。

 はっきりとは言葉に出さずともヘロミア夫人の瞳は暗にそう語っていた。


「……僕に裁定されるなど気に食わないと?」

「いいえ、皇帝陛下もお許しになっているのならわたくし共が口を挟むことではありませんから。ただ……領地の割譲についていま一度考え直していただけませんでしょうか? 我らオータムリーフ公爵家は反省しております。賠償も調査も受け入れます。息子を鉱山死地に向かわせることも了承しましょう。……そうですね。現当主の我が夫バーゲン・オータムリーフですが、これも今回の責任を取り交代させましょう」

「は? ヘロミア、何を……」

「黙りなさい」

「うっ……」

暫定ざんていとして仮の当主をわたくしが務めさせていただきます。そして、しかのちに長男たるヒューラックに任せることとします。そのうえでオータムリーフ公爵家として出来得る限りのことを行うことをお約束いたします」

「…………」

「領地を失うにしても半分に分割せよとはあまりにも乱暴では? そうですね……わたくし共としても大変な決断を強いられることですが、これもご迷惑をお掛けした皆様に償うため。どうでしょう、領地の三分の一を献上する。……これでは足りませんでしょうか?」

「…………」


 沈黙が場を支配する。


 一見譲歩しているようには見える。

 リヒャルトの鉱山送り、被害をこうむった者たちへの金銭による十分な賠償、当主交代、さらには当初とは範囲は異なるが領地の一部割譲の了承。


 対外的にもこの条件なら反省している姿勢を周囲に表せるだろう。

 他の貴族からの突き上げは多少あるだろうが、それもいずれ収まる範囲に留まると予想出来る。


 ヘロミア・オータムリーフ。

 ある意味情を捨てきれず中途半端だったバーゲンとは違ったやりにくさを感じる。


「……ヴァニタス殿、どうされますか? オータムリーフ公爵家の、ヘロミア殿の提案を受けますか?」


 宰相からの問い掛け。

 本当にこの条件で合意するのかと宰相は無表情に尋ねてくる。


 だが僕は見た。

 宰相アウグストのお前はこの程度で言いくるめられるのかと試すような目を。


 フ、僕もここで終わらせる気なんてサラサラない。


 ヘロミアの平坦で冷酷にも見える瞳を僕は覗き込み問い質す。


「で?」

「で……とは?」


 表情は変わらずとも一瞬冷や汗を浮かべたのを僕は見逃さなかったぞ。


「僕が無為混沌の結社アサンスクリタおびき寄せた原因だとしてそれで何か問題があるのか?」

「……それはお認めになると言うことですか? ご自分の行動が帝国に不利益を招いた可能性があったと」

「だから何だ? 帝国の敵テロリストの馬鹿な行動を僕のせいにされても困るな」

「…………」


 自分でも無理筋な主張だとわかっていただろうに。


 この主張には無理がある。

 僕の不審を訴えることは悪くない。

 立場が違えば有効に働いただろう。

 だが、テロリスト側に味方するような行為は自分たちの不利を招く。


 そもそも狙われた僕が疑わしいならリヒャルトの方がよほど悪辣だ。

 何せそんなヤツらに協力した張本人なのだから。


 それでもこの一歩間違えれば不利になるだけの話題を出したのは、宰相が公爵家オータムリーフを潰さないと確信していたからだろう。

 

 僕の責任をほのめかすことで宰相に不審の種を植え付け不和を起こし、これ以上の要求を突きつけてこないようにと牽制した。

 僕と宰相の思惑が異なると読み切っての行動。


 さらにいえば、先程の条件の提示も自分たちから代償を支払うような姿勢を見せることで、いかにも反省しているように錯覚させた。

 自分たちは問題解決のために出来るだけ尽力していると見せかけた。


 なるほど、いかにも上位の貴族らしい手慣れたやり口だ。

 普通の貴族であれば身分上位者が自分たちの要望を飲み譲歩してくれたと喜んで条件に飛びついただろう。


 だがなぁ、潰せないならないなりにやりようはあるんだぞ。


「そうだな、領地の割譲は嫌か。なら譲歩してやろう」

「…………」

「帝国には三分の一の献上で許してやる。……ただし条件がある」

「それは……?」

「条件は一つ。――――利益を渡せ」

「利益……? それは一体どういった……」

「すべての利益だ。オータムリーフが年間に得ている利益。帝国から爵位に応じて支払われる給金、民からの税金、農作物や鉱物を売買して得た金銭、オータムリーフの行う事業のもたらす利益、その他諸々もろもろすべて。その半分を国庫に納めろ」

「そ、それは……あまりにも……」

「馬鹿な! いくら半分とはいえ利益を渡せだと!? あり得ない! 一体どれほど膨大な金額になるのかわかっているのか!」


 わめき散らすバーゲンを無視して僕はヘロミアに視線を移す。

 内心で冷静さを保とうとする淑女は恐る恐る僕へと尋ねた。


「利益……だけでよろしいのでしょうか?」

「ああ、経費は別に計上して構わない。でないとオータムリーフの民たちの負担が増すだけだからな」

「…………期間は?」

「ん? ああ、三十年ぐらいか」

「――――は? 三十年……? それではヒューラックが当主の間は……」


 初めてヘロミアの冷酷な仮面が崩れた瞬間を見た。

 整った顔立ちが歪に崩れ内なる不安が表層に表れる。


 悪いな。

 元々当主交代など僕には何のメリットもないんだ。

 役に立たない当主バーゲンを交代させて、改めて立て直すつもりだったのだろうが諦めてくれ。


「それでだな。ヘロミア、僕らは互いに信用がない。となるといくら帝国の誇る四大公爵家の一角といえどこのままでは本当に利益の半分を国庫に納めているかわからない、そうは思わないか?」

「…………」

「わ、我らを疑うというのか! な、なんてことを!」

「何を言う。僕の潔白けっぱくを疑ったんだ。自分たちが疑われることぐらい当然だろう? それにいまの疑惑の残るお前たちなら利益を経費と偽って誤魔化すことすらあり得る、違うか?」

「ぐっ……だがっ!」

「……黙りなさい」


 なおも納得のいっていないバーゲンを一喝いっかつするヘロミア。

 だがまだ話は終わっていない。

 

「信用がない以上、信用に足るところから力を借りるしかない。……宰相」

「……何でしょう?」

「帝国でも暇している役人ぐらいいますよね。例えばですが償いのために三十年程国庫に利益を献上しなければならない領地があるとしたら……そこに派遣出来る人材ぐらいは確保できますよね。勿論年単位の交代制で構わないんですが」

「ええ、勿論。帝国の役人たちの層は厚い。多少工夫するば工面することは十分可能でしょう」


 うむ、これで人員の目処めどはたったな。


「という訳だ。査察を受け入れろ」

「なん、ですって……?」

「調査だよ、内部調査。きちんと金の流れを追うことの出来る役人を配置しないとお前たちのことだ、金額をチョロまかしてもおかしくないだろう? それに領地の税金を不当に釣り上げる、なんてことをされても困るからな。監視……と間違えた。すぐ近くで見守ってくれる他所様の人材は必須だろう」

「…………くっ……」

「それにこれは好機だぞ。何せお前たちは他国との内通が疑われる立場。一年中内部から見守って貰えば三十年経つ頃にはすっかり疑いは晴れるだろう。な?」

「まさか……アナタははじめから……」


 いま頃気づいたか?

 そうだ。

 僕の本命はリヒャルトに相応しい報いを与えることだが、同時にオータムリーフの勢力を継続的に落とし続け、なおかつ余計な真似をしないよう監視をつけることでもあった。


 領地の割譲?

 一部絶対に手放して貰う必要のある場所はあるにはあるが、僕の手元に来ない以上それほど執着はない。

 

 利益も実をいえばそれほどの金額は求めてない。

 勢力を拡大出来ない程度に搾り取れればそれでいい。


 これでオータムリーフ公爵家は数世代に渡って勢力を盛り返すことは叶わなくなった。

 少なくとも元の地位を取り戻すのは十年単位で困難となっただろう。


 当然帝国に反旗をひるがえすことも、僕たちにちょっかいをかけることも監視がいる以上不可能に近い。

 査察に赴く監視員が買収される可能性は残るが、そこは僕の管轄かんかつじゃない。


 それに、僕は忙しいんでな。

 構ってられないんだ。


 だが……うむ、最後に少しくらいは希望を見せてやるか。

 腐っても公爵家、変なタイミングで爆発されても困る。

 ガス抜きは必要だしな。


「ですが、公爵家のこれまでのご活躍とやらも考慮に入れる必要があるでしょう。どうです、宰相。オータムリーフ公爵家がルアンドール帝国に利することを行った時には褒美として利益を納める期間を短縮するというのは」

「ええ、ではその判断はこちらで請負うけおいましょうか」

「よろしくお願いします」


 これならヘイトも多少は分散するか。


 そして、どうやらこれで宰相のお眼鏡にも叶ったらしい。

 口の端を釣り上げ冷たく微笑む姿は『冷石宰相』の二つ名に相応しいほど、たちが悪いものだった。


「どうする? まだ続けるか?」

「……いえ、すべての条件を飲ませていただきます」

「終わりだ……我がオータムリーフは私の代で終わりを迎えた。何故だ、何故こんなことに……」


 バーゲンが無気力に嘆く中、ヘロミアは深く頭を下げ僕の出した条件を飲んだ。


 もう全面降伏するしかオータムリーフ彼らに道はなかった。






 大筋は決まり後は細かい部分のり合せのみ。

 それぞれに僅かに疲労の色が見えたところで宰相が『そろそろ小休止を』と提案する。


 そのタイミングで応接室の扉がノックされた。


「遅くなり申し訳ない」

「父上……? 何故ここに……」


 扉から現れた思わぬ人物の登場に驚く。


 こちらに向かっているのは知っていた。

 帝都で開催される収穫祭を見越して彼女たちを連れて向かっていると連絡を受けてはいた。


 だとしても早い。

 母上たちを置いて先行してきたのか?


「ヴァニタス、安心してくれ。ラヴィニアたちはリンドブルム家の騎士団長たるグスタフが警護してくれている」


 僕の驚きを見透かすように薄く微笑みながら母上たちの状況を説明してくれる父上。

 そこに宰相がすっと距離を詰める。


「これはこれはエルンスト殿、こうして顔を合わせるのはいつ以来でしょうか。壮健そうで何より。ですが、確かこの席には間に合わないと聞いていましたが……」

「ええ、アウグスト殿こそお元気そうで何よりです。……事は息子の関わることですから、少し無理をして急ぎました」


 その後、打ちひしがれるバーゲンと交渉の始まる前の大人しさに戻ったヘロミアに軽く挨拶を済ませたところで、部屋を移し父上と二人きりとなる。

 父上は毅然きぜんとした態度で僕へと向き合った。


「ヴァニタス、ここから先の細かい交渉は私に任せてくれないか?」

「ですが……」

「君がお膳立てしてくれた場を奪うようで気が引けるが、君にはこの後大切な用事が控えているのだろう? こんな些事さじに関わっている暇などないはずだ」

「……はい」

「私も大体一ヶ月前か、連絡がきた時は驚いたよ。ちょっとしたいざこざの末に宮廷魔法師を奴隷にした、なんてね。……だが、何処か君らしいとも感じた。君なら立ち塞がる者がどんな相手でも容赦しないとね」

「…………」

「頼りない父だがここは任せてくれ。我がリンドブルム候爵家に敵対した者に必ず償いをさせて見せる。……だからその時まで体を休めるといい。いいね」

「……はい、お願いします、父上」

 










 それから数日後。

 僕の姿は屋敷の中庭にあった。


 約束の時が来ていた。

 あの時、真紅の首輪を目の前の人物の首に嵌めた時から一ヶ月が経過していた。


「待たせたな、ハベルメシア」

「…………うん」


 たたずむ彼女の首には真紅に輝く首輪。


 だが、今日この時あの首輪は契約を終え外されることになる。


 それは、奴隷ハベルメシアの関係の終わりを意味していた。











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