第百三十九話 ラゼリア・ルアンドールと再戦
「カカカッ、それにしても良い! 良いの! 素晴らしい技量じゃ! ワシと
「途切れることのない連携……これほど
「ヴァニタス・リンドブルムの奴隷たち、
「むむむ……本当はまだ切りたくなかったけどこうなったら奥の手を……」
度重なる攻防の末、痺れを切らしたハベルメシアが咄嗟に片手を胸の前へと構え集中する。
さり気ない
だが、新たな手を打とうとする相手を前に、敵対する者が悠長に待ってくれるはずがなかった。
特に強敵ともなれば……一瞬の心の
「ホレ、一人脱落じゃ。――――
意識の間隙を縫うように展開された光に
それは道行く者に瞬速を超えた刹那の加速と光による強化を与える。
「…………」
「えっ!?」
「ハベル!」「ハベルメシア!」
「させない。
ハベルメシアの最も近くで護衛の役割を果たしていたラパーナが、咄嗟に『黒』の魔法で割り込もうとする。
だがそれは、いまこの時においては不要な手助けだった。
いまやフリーダ・アルテム率いる首輪付きの魔物溢れる戦場を、障害物などないと言わんばかりに一直線に蹴散らし横断せし者が。
彼女は一足飛びに跳躍すると、いままさに光を纏った剣先をハベルメシアへと突き立てんとする
「――――
ガキンッと金属同士が激しくぶつかり合う音が戦場に響く。
「竜骨を砕くか中々……だがまだ軽い、軽いな」
「…………」
「えっ!? あ、ラ、ラゼリア様!? なんで!?」
窮地を脱したハベルメシアが驚愕の声をあげる。
そう、この場にいないはずの人物の登場にハベルメシアは目を見開いて驚いていた。
ルアンドール帝国第四皇女ラゼリア・ルアンドール。
一度は取り逃した相手を前に暴竜皇女は不敵に笑う。
「ああ、
「クリスティナ、すまない。少し遅くなったな」
「いえ、そのようなことは。……助かりました、流石は主様の信頼する御方です」
ホッとした様子でいまだ驚愕覚めやらぬ様子のハベルメシアへと視線を向けるクリスティナ。
確かにいまのは少し
ラパーナこそ反応出来ていたが、それでも万が一のことはありえる。
先程の光を纏った剣撃はそれだけの脅威だった。
「ラゼリア様、ありがとう!」
「……ありがとう、ございます」
「ウム、私たちは共にヴァニタスを支える仲間。当然のことをしたまでだ」
「え、えっ、なんで? なんでここにラゼリア様がいるの!?」
ヒルデガルドとラパーナが目の前の敵を警戒したままに礼を言ってくれる。
しかし、ハベルメシアだけはここにいないはずの私を見て酷く取り乱していた。
だがある意味彼女の反応の方が当然とも言える。
ヴァニタスは他に情報が漏れることを危惧し、クリスティナにしか私の存在やその他の用意を知らせていなかった。
故にヒルデガルドたちの反応の方こそ異常ではあるのだが、彼女たちは目の前の敵の一挙手一投足を見逃さないために集中している。
そんな中で緊張感の欠片もなくいつもの如く
取り敢えず『ね、ねぇクリスティナちゃんは知ってたの? も、もしかしてわたしだけ知らなかった? なんでぇ? なんでみんな何も言ってくれないの!? ねぇ、答えてよぉ』と空気も読まずにウザ絡みするハベルメシアは無視することにする。
「それでだ。事前の想定通り動くつもりだが問題ないか?」
「はい。……ですがよろしいのですか? ラゼリア様の仮想敵は
「なあに、ここからは私一人の方が何かと都合がいい。クリスティナたちは教員たちの援護を頼む。私の近衛とあいつが向かったとはいえ流石に多勢に無勢だ」
「……はい、ではご武運を」
「ハベルメシア、お前もだぞ。魔物共の軍勢を一掃するならお前の魔法が必須となるだろう」
「え〜〜、まあすぐ消えちゃうおじいちゃんを相手にするよりはいいけど……」
「頼んだぞ」
「は、はい!」
ここには私一人先行してきたが、やはり物量は
クリスティナたちには当初の予定通り向こうの抑えをしてもらった方が良いだろう。
私には姿こそ見せないが
去り際クリスティナから見知らぬ老人の扱う魔法について聞く。
なるほど……これまで『光の道により高速移動する』魔法と『睡魔を誘う』魔法の二種類の魔法を扱ったと。
どちらも直接の攻撃力より他者のサポートを優先したかのような魔法。
本人は積極的に戦わないタイプか?
まあいい、何にせよ倒すべき敵には違いない。
「カカッ、しかしどうしたものか? ヌシ一人でワシら二人と戦うとでも? ……正気かの?」
「ウム、まあな。ところで、そこの御仁とは初対面か。我が名はラゼリア・ルアンドール。短い付き合いだがよろしく頼む」
「ワシは
「ああ、名前だけでいい。余計な問答は不要だ」
いまも教員たちは押し寄せる首輪付きの魔物の群れを前に奮闘している。
無駄話など要らん。
「……そうか、ちと残念じゃな。しかし、これはどういうことじゃ? ヴァニタス・リンドブルムの関係者の所在は結社でもすでに把握しておる。特に封印の森で我らの思惑を狂わせてくれたといえるヌシはな。……ヌシがいまこの場所にいるはずがない。帝都で
何故か……。
まあ偽装工作を施したまでなのだが……それを聞かれては仕方ない。
「答えなど期待していないだろうが敢えて答えてやる。――――私がっ! 常にっ! ヴァニタスの側にいたいからだっ!!」
「……おう?」
「
「カカカッ、これはこれは男女の色恋じゃったか。誠、余計な事を聞いたの」
私の宣言に大笑いで答える老人……いやホロロニクスとやら。
毒気のない笑いは少し前までの人の心根すら観察するような値踏みする視線ではない。
……だが油断ならないのは変わらない。
ただでさえのらりくらりと戦い辛い
「さて、
「…………」
「
「じゃがの。ワシらもそう簡単にやられるつもりはないぞ」
「そうだな。お前たちは強い。ハベルメシアを強襲した連携も並大抵の者では防げなかっただろう。あれにはそれだけのキレ味があった。……だから初めから全力だ。全力でお前たちを叩き潰す。――――
不要となった
これが私が到達した竜骨魔法の極地。
……いや、こんなことをヴァニタスに言えば怒られるな。
自分の限界を安々と決めつけるなと。
しかし、この魔法の性能だけは折り紙付きだ。
自信を持って言える。
この魔法こそいま私の出来る最高の魔法だと。
「――――
身に纏う。
竜骨を。
それは腕を包み、足を包み、背を這い、胸を締め付ける白く強固な竜骨で構成された装甲。
視界確保のために竜骨は顔を覆わない。
打倒すべき敵を両の目で見定める必要があるからだ。
「ッ……」
その上で全身を覆う竜骨は私の体を内側に伸びる小さな棘で傷つける。
竜骨は滴り落ちる血を表面に留めることで赤く濡れ染まる。
「…………それ、は……」
どうやら気に入って貰えたようだな。
「体全体を守る鎧、じゃと……?」
鎧?
少し違うな。
これは――――敵を殺すための武器だ。
「フンッ」
新たに得た部位、尾を振り地面を砕く。
……ウム、やれるな。
「さあ、我が愛する者の大切な者たちを狙う不届き者共よ。――――我が魔法の真価、身を持って知れ」
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