第七十一話 勝者と敗者
「
両手の握り締める独特の動作の後、ヴァニタスくんの前方に突き出した両手の手のひらから放たれる破壊の光線。
さらに闘技場の頑強な壁すら揺るがす威力まで兼ね備えている。
最初の一発を躱せたのは奇跡に近い。
手の動きには警戒はしていたけどまさか一発目からあんな魔法を放つなんて……。
直撃すれば……あれだけで勝負は終わっていた。
「
「っ、
また光線!?
回避した先を予知したかのように寸分違わず放たれる魔法を、
うっ……剣が軋む。
武器ごと投げ飛ばされそうになるところを踏ん張り耐えた。
「
な、何回こんな魔法を?
これだけの大魔法をこんなに連発出来るものなの!?
だが、驚きに固まっている場合じゃない!
「ぐっ……」
迫る光線に体を出来る限り捻り躱す。
紙一重。
本当に紙一重で回避した。
横目で流れていく光線が再び闘技場に轟音を鳴り響かせる。
これだけの魔法を連続で使用して魔力が尽きない?
オカシイよ!
「
だけどそんな疑問が些細なものになってしまうほど不味いのがこの魔法。
「ぐ……ぐ……あ……ああっ!
抜け出すのにも苦労する見えざる力による圧迫。
全身が潰されるかと思うほどの圧力。
この魔法、イルザさんとの模擬戦でファイアボールを圧し潰した魔法に酷似している。
でも五メートル以上、下手したら十メートル近く離れたこの位置にまで届くなんてあり得ない。
距離による減衰は!?
一体どうなってるの!?
なによりこの圧力に対する対処法がわからない。
取り敢えず
「ふ……う……」
紙一重で躱す度体力が大幅に削られる。
玉のように噴き出る汗を拭う時間もない。
この終わらない時間が酷く長いものに感じる。
近づくことさえ出来ない。
「
「く、本当に魔力が尽きないの!?」
「――――
後ろに振りかぶる
ヴァニタスくんの右手から放たれた魔力の光弾が空中で分かたれ横殴りの雨のように降り注ぐ。
「やああっ!」
幸いにも威力は飛び抜けている訳ではなかった。
精々闘技場の地面が軽くひび割れる程度。
だが、当たれば痛みに悶絶するのは間違いない。
素早い相手を捉えるための広範囲魔法。
こんなものまで……。
ただひたすら当たりそうになるものだけ強化した剣で弾く。
「
防御に手一杯の攻撃に重ねて放たれた容赦のない光線。
死。
肌を刺すヴァニタスくんの殺意。
『殺す気で来い――――でなければお前が死ぬぞ』
先程の言葉が脳内に反響する。
「
体が軋む。
それでも強化を維持しなければ――――。
「あああっ!!!!」
肩がっ!
掠っただけなのに激しい痛みに襲われる。
強化した状態は防御力も上がっているはずなのにそれを貫通して!?
「ぐっ……あ……」
闘技場の地面に弾き飛ばされる。
土の苦い味と血が混じった味が口内に広がる。
でもそんなこと関係ない。
すぐ、すぐ立ち上がらないと追撃がっ。
「あああっ!
全身を包む強化の魔力。
これは本当の切り札。
数日満足に動けなくなる代わりに体の許容限界を超えて強化する魔法。
もうこれしかなかった。
レクトールとの激しい特訓でようやく身に着けた新しい魔法のことも頭になかった。
立ち上がり震える手で剣を構え……。
「――――え?」
「
いつの間にか至近距離まで接近していたヴァニタスくんによる
「――――ガハッ!!」
吹き飛ばされ闘技場の壁に激突する。
痛みを通り越していた。
ただひたすら呼吸が苦しい。
ゼー、ハーと激しく息を吸おうとして、満足に呼吸が出来ていないことに初めて気づいた。
何故か全身が冷たくなるような感覚。
ぬるりとした何かが手に触れる。
「……あれで腹部が吹き飛ばないとはな。
「あ……ぁ……」
頭上でヴァニタスくんが何か喋りかけてきたようだったがもう何がなんだかわからない。
地面に倒れ伏す中、視線の先には砕け散った一本の剣。
魔法学園に向かう時、師匠に
「集束魔力強化」
「ぐ……」
片腕一本で首を捕まれ持ち上げられ、両膝を地についた状態でヴァニタスくんを見上げる。
「
「ヴァニタス! それ以上は……アンヘルが死ぬ」
「――――
「ぅ…………」
立会人兼審判でもあるクロード先生の悲鳴にも似た静止の叫び。
それを背に浴びながらもヴァニタスくんは止まらなかった。
これは……力が抜けていって、いる?
もう殆ど動けない状態だけど、それでも抵抗する力そのものが無くなっていくような……。
さっきまで辛うじて動かせていた腕も力が入らない。
指一本……動かせない。
「ヴァニタス!」
「……まだコイツの口から聞いていません」
掴まれた首がギュッと締まる。
眼球の動きだけで見上げるヴァニタスくんの瞳は、決闘のはじまりと変わらなかった。
冷たかった。
漆黒の瞳は冷徹で、それでいて何処か残念そうだった。
「…………こ、降参、します」
「勝者、ヴァニタス・リンドブルム!」
勝者を称えるはずの歓声は沸き起こることはなかった。
締められていた首にかかる手がフっと緩み、意識が……暗闇へと落ちていく。
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