第四十九話 老執事から見た見慣れた光景
「きゃっ! またですか! ヴァニタス坊ちゃまっ」
「ん、ああ、すまない」
「いえ、いいんですけど……今週私もう六回目ですよ」
「そうだったか? 悪いな、覚えていない」
「もうっ……少しくらい気に留めて貰わないと困ります」
「善処しよう」
今日も取り寄せた書籍を読み
屋敷のメイドで撫でられていない者などいないのではなかろうか、変わらぬ熟練の手付きは最早絶対的強者のそれ。
しかも、どうやら最近メイドたちの間では、誰が坊ちゃまに一番多く尻を撫でられるかを競っているらしい。
……以前までなら万が一にも考えられない行動だ。
奴隷たちに暴力を振るう坊ちゃまは、身の回りの世話をするメイドたちにも恐れられ避けられていた。
その時はいまと同じように尻を撫でられたり体に軽く触れられたことに、苦言を
恐怖から口を
転生……別人……いまだ完全な理解には及んでいないが、坊ちゃまは確かに変わられた。
それが良い方向なのは間違いないだろう。
横暴に振る舞うことはなく理知的で激しい感情を表に表さない。
無為に暴れ回ることをせず、屋敷中に響く怒鳴り声をあげることもない。
奴隷の娘たちを連れハーソムニアに繰り出した後も、特に街の住民から不満は聞こえてこなかった。
日々接している者たちもヴァニタス坊ちゃまの変化に屋敷の雰囲気が良くなったと歓迎している。
しかし……エルンスト様とラヴィニア様、お二人にとっては悲しいことにいまのヴァニタス坊ちゃまはもう過去のヴァニタス坊ちゃまとは異なってしまった。
忙しい合間に時間を作っては幼い頃ヴァニタス坊ちゃまがラヴィニア様に花冠を作って下さったあの丘へと訪れるお二人の姿にはとても胸が締め付けられる。
ですが……それでも私が変わらずヴァニタス坊ちゃまにお仕えするのは疑う余地もない。
「爺や、何を呆けている。今日の支度は整っているな」
「ハッ、勿論でございます」
「今日は特別な日になる予定だ。その一助を担うことになる彼女には精々熱烈な歓迎をしてやれ」
「はい。リンドブルム家の執事として精一杯のおもてなしをさせていただきます」
そうだった。
呆けている場合ではない。
今日はハーソムニアから奴隷商人のある御方が訪れる日。
奴隷を扱う商人など信用ならない者たちばかりだが、いまのヴァニタス坊ちゃまのお客様なら失礼のないようにしなくては。
私が来訪者の訪れに気合いを入れ直した直後のことだった。
「キャッ!?」
「坊、ちゃま? 流石にそれは……」
見れば坊ちゃまがメイドの尻を撫でるだけでは飽き足らず、パンッと叩いて音を確かめて……いる?
叩かれたメイドも驚いているが……心なしか他の者とは違う対応に嬉しそうだ。
「ヴァニタス坊ちゃま、貴方様はまだ進化するというのですか……!?」
あの無意識と有意識の狭間の動き。
メイドによって許容される範囲を探りつつも、まるで
このユルゲン、感服いたしました。
それにしても……先日の鍛冶師親子の件といい、マユレリカお嬢様救出といい、坊ちゃまの采配は目を見張るものばかり。
救出に赴く際にはエルンスト様と僅かに衝突はあったようですが、それでも賊の魔の手からマユレリカお嬢様を無事救い出した。
奴隷の娘たちとも日々信頼を深めているように見受けられます。
私もこの老骨朽ち果てるまで、いつまでも貴方様をお支えいたします。
兄想いのノイス様が天国で心安らかに過ごせるように。
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