調和のとれた完璧な世界
@Tomahawk32
調和のとれた完璧な世界
「はぁ、また失敗だ、今度こそ、今度こそは、、、」
「やったー!ついに、ついに完成したぞー!」小さなアパートの一室、大量の資料が乱雑に置かれたテーブルで、私は大きくガッツポーズをした。
長年の研究がついに身を結んだ。人類を救う装置が完成したのだ。
思い返せばここまで長い道のりだった。私が自然科学の分野で輝かしい功績を残したのも過去の話、今では不可能な研究を続ける気の触れた老人と、後ろ指をさされて来たが、ほら見たことか!私は間違っていなかった。
「そうだ、このことを早く発表しなくては!」私は踊り出しそうな心でパソコンの前へと行き、電源ボタンを押すが、おかしい、もう一度押す、もう一度押してみるが、、、つかない。
「こんな時に故障か」ふと壁時計に目をやると、時刻は午前3時を回っていた。外はあいにくの大雨。窓を叩く音が部屋を静かに支配していた。いつもなら無性にイライラするが、今日はそんなことは気に止まらなかった。
「まぁ明日になったら電気屋に持っていけばいいか」しかし、このまま眠るには余りに勿体無い。そういえば昔、友人に貰ったワインがあったはず。私はキッチンに行き、眠っていたワインを引っ張り出した。いつか記念の日に飲もうと取っておいたが、今日ほどふさわしい日はないだろう。
「うーん、、、」頭が痛い、いつの間にか眠っていたようだ、、、!!「ッッッな、何だ!?」ギョッとして思わず仰け反り、イスから倒れそうになる。目の前に人の輪郭をした光が輝き、そこに存在していた。
「酔っている、、、のか?、、」思わず口から出たが、その光が発している圧倒的な存在感と神秘性に、夢や幻の類ではないと本能的に理解していた。困惑しながら眺めていると、突然光が強く輝きだし、独特で、神秘的な音を鳴らし出した。骨の芯を揺らす音、心に直接訴えかける音色。
どれくらい経っただろう、実際は数十秒だと思うが、とてつもなく長くも感じられた。音が鳴り止むと、一瞬強烈に輝き、静かに消えていった。
「何だったんだ?、、、」違和感を感じるほど静かになった部屋で、私は一人唖然としていた。しかし、メッセージを確かに感じ取っていた。あの光が私に伝えたこと、、、それは警告。研究を止めるように伝えていた。私は、人間を超えた大きな意識に、背筋が凍りつくような恐怖と後ろめたさを感じたが、この研究は必ず人類を大きく救うことになる。私は自分に言い聞かせた。ここまで来て止まれる筈がなかった。
あれから5年が経ち、人類の大半、9割りが滅亡した。原因は突如現れた新型ウイルス。他に類を見ない驚異的な感染力と絶対的な致死力に人類はなすすべなく、ついには滅亡の手前まで追い込まれていた。
瓦礫と化した都市で、私は椅子に深く腰掛け、最後の時を待っていた。「私は、間違っていたのか?」私が発明した、天候を自在に操る装置。あの時、あの光が伝えたように、研究を公表していなかったら、未来は変わっていたのか?
人類の減少に反比例して植物は本来の力を取り戻していた。「自然を抑えこもうなんて傲慢な夢、地球の怒りを買ってしまったのか、、、」人類が滅亡した世界、調和を取り戻し、皮肉にも美しくなった世界で私は、静かに息を引き取った、、、
「はぁ、また失敗だ、せっかく忠告したのに、、、今度こそ、今度こそは、、、」
調和のとれた完璧な世界 @Tomahawk32
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