六、愛

振られた。

頭が真っ白で、息が苦しくて、彼女の瞳は今の僕と同じような瞳をしてる。


しばらく経って彼女はいつものバーに入って行った。僕もしばらくしてバーに入る。


彼女の横に座った。涙が溢れてくる。なぜ、気づかない。なぜ分からない。


彼女にメールをば送る。


「別れよう。」


今日彼女に振られたのだ、別れたのだ。


店の外から聞こえる、エンジン音がいつもよりもうるさい。

大嫌いだ。こんな音。俯きながら大声で泣いた。


「すみません。うるさいです。」

 

なんだ、エンジン音じゃない、懐かしい人の声。


隣を見ると君が喋っている。


声が聴こえる。


君の声はこんなに綺麗だったなんて、何度も想像した君の声、美しく、透き通っている。


気付けば、エンジン音は聞こえなくなっていた。


ブツブツと僕に文句を言っている。

その全てが綺麗だった。


君の顔が驚きと不安の顔をする。彼女が

「すみません。どこかで…」

 そんな事を聞いてきた。驚きと不安の声だ。

「すみません、泣いてばっかで、一回泣くと止まら無くなっちゃって。」

 

 彼女と目が合う。


彼女が泣き出す。

「ごめんなさい。」

彼女が泣いている。

バンドの演奏よりも大きな声で。

「そんなに大きな声を出さなくても聴こえるよ。」

僕は大きな声で泣く。

彼女の声に重なるように。


僕の声を消すように。

君の瞳を覆うように。


その距離0センチ。


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見えない君と聞こえない僕 蜂屋二男 @hachi843

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