五、はぐれもの

 最近はいくら泣いても、彼女が気づきてくれない事がある。涙ぐみながら、こんばんはと声を掛けて、彼氏なのにナンパだと勘違いされて。冷たく突き放される。


 気付いてくれなかった日は、不安になって辛くなって、メールで急用が入ったと伝える。その後は後をつけて、いつものバーなら入る彼女の横で彼女の辛そうな顔を見る。


 今日も彼女とのデートだ。今日はうちの親父と会って欲しいと伝えようと思っていた。男一人で僕を育ててくれた。良い親父だから、紹介したくて堪らなかった。

「愛が全てさ、愛があれば何だって叶うんだ」

 と酔っ払うと僕に愛を語ってくる。


 待ち合わせ場所に行く途中、君を見つけた。

 母の死を思い出して、泣く。

 通り過ぎる人に変な目で見られるが、これも愛の為だ。何も気にしない。駆け寄って声をかける。


「こんばんは」


 その後の彼女の顔は知らない人を見る顔だった。何度も見た表情。


またか…。もう一生彼女に気づいてもらえないんじゃ無いだろうか。

 後を付けて、待ち合わせに着いたら彼女のニヤニヤした表情を見る。僕とのデートがそんなに嬉しいのだろうか。有難う。涙が止まらない。

 すぐ隣に立ってみるが、気づいてくれない。


 急用が入ったとメールをする。


 彼女の表情は凄く苦しそうだ。


 彼女からメールが届く。


「別れよう。」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る