なんだかとても、日差しが心地よい

「ねえ、この鳩には名前は付いているの」

「いえ、まだ」

良かったと鱶羽譜由結ふかわふゆきが安堵の溜息をつく。

付けるなら可愛い名前にしてあげたかったから名前は決めていなかった。

まだ名前も付けてなかったのに、ふゆきちゃんに渡してしまった。

「今ここでこの子に名前を付けてください」

「名前を付けると汚れるからできない」

鱶羽譜由結ならそう言うだろう。

ならば、これならどうだろうか。

「付けなかったら皆におまじないのことバラします」

「バラされても問題ない。誰も信じないので」

「ふゆきちゃん、この鳩どうするんですか」

鳩を殺すほうが罪が重いのだと問うてみようか。

私は彼女が罪の意識に思い悩んでいることを知っている。

羽邪馬七桜を救うためとは言っているけれど自分勝手に他者の命を蹂躙するのだから、そんなの小学生の子供に耐えられるわけないじゃないか。

鱶羽譜由結は口を開かないが表情も崩さない。

見誤ったかもしれない。

おまじないがどこまで進んでいるかわからないけど、

彼女にとってはもう殺しの罪を問うことはちっぽけな脅しなのかも。

「ふゆきちゃん、あのね」

「リボンが可愛いからリボンにする」

なんだ。

案外あっさり折れるんだ。

まだ彼女を追い詰める手段はあったのに。

「可愛い名前。私、バラしませんよ」

「約束破られたら困る」

それはお互い様なのです。


これは約束。

私と鱶羽譜由結の二人だけの約束だ。



鱶羽譜由結はリボンをちゃんと殺せたのだろうか。

ならば、リボンはどんな殺し方をされたのだろう。

多分おまじないというくらいだから血を抜かれたか心臓を取られたかしたんじゃないかと思うが、毎日あの狭い公園中を走り回っても一羽も捕まえられないくらいような子にそんなことできるのだろうか。

リボンを抱いた鱶羽譜由結を見ていて思ったけれど、

あれは鳩に嫌われているとしか思えない。

彼女は家で猫を飼っているらしいから、そのせいかもしれない。

猫は、多分鳩を襲うだろうから。

それにしても、鱶羽譜由結は罪を犯すと言っているけれどどこまでやる予定なんだろうか。

小学生の私達にできることは限られている。



「ふゆきちゃん、お友達になったならおまじないについて教えてくださいよ」

「友達じゃない。おまじないは人に言ったら汚れちゃうから、言えない」

校庭から生徒たちの声が聞こえてくる。

ボールを蹴る足音。

カーテンが風に絡んで膨らんで、

ときおり窓辺から飛び出して外の様子を伺っている。

リボンのことを聞こうかと思ったが聞かないことにした。

咲肝戸左右さきもとさゆは昨日のことなどすっかり忘れてしまって今日のこともろくに考えていないような、そういう人間だから。

「私たちはどんな罪を犯すんですか」

「罪を犯すのは私だけ。さゆちゃんはそれを見ている」

ずっと見ているだけだという。

なんだかとてもつまらない話だ。見ているだけも面白いかもしれないけれど、

できれば私も何か、

私も何かしたい。

「何か、私にできることってないんですか」

「人を捕まえて、殺さないといけない」

それだけは手伝ってもらわないといけないと鱶羽譜由結は言う。

なんだかとても、

日差しが心地よい。

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