失態、熱反応

人は黄泉帰るのか?。

エジプトの大人でも無理だったのに小学生にできるのか。

そんなこと関係ないのだ。

「協力しませんよ、私」

黄泉帰りの呪文通りのことをしなければ羽邪馬七桜は生き返らない。

咲肝戸左右さきもとさゆに協力してもらうつもりはなかったけれど、

彼女はこのクラスの担当教師が提案したルール「クラス内では敬語で喋る」を唯一実行している生徒であるし、

どんな命令にも従順に従ってくれそうな印象を持ったのだ。

私はどんな目にあってもいいし、

何があっても自力で抜け出せるし、

いいけれど。

咲肝戸左右は違う。


私は今日も公園で鳩を捕まえようとしているけれど、

上手く行くはずがない。

鳩は仰向けに寝かせると動かなくなるとテレビで見たからやってみようと思ったのだけれど、

全然上手くいかないし、

白い鳩なんてそんなに沢山いないし。

この小さな公園の四方はアパートに取り囲まれていて逃げ場がない。

私はその全てに見つめられているようで身震いする。

あの学校の生徒はみんなこの団地に住んでいる。

密集している。

熱帯の星のようなぎらぎら輝く目が見える。

咲肝戸左右が螺旋階段を降りてくる。

白い生き物を追いかけている。

目が回りそう。


「さゆちゃん、あなたが抱えているものはなに」

「鳩です」

咲肝戸左右が抱えているのは白い鳩だった。

首にサテンの赤いリボンが巻かれていてその先は犬のリードのように彼女の右手に巻かれている。

日光に白い羽毛がきらきらと輝いていた。


白い羽毛の鳩の生き血を手に入れて枯れ草の上にそれを撒く。


「怪我をしている……」

「そうです。足を怪我していて血が止まらないんです」

私はその鳩の性別について聞いたりしたと思う。雌だと答えたのでどうやって見分けたのか聞いてみると咲肝戸左右は黙ってしまった。

「さゆちゃん、その鳩の血を分けて」

「嫌ですよ」

おまじないに使うに決まっているからやめてほしいと咲肝戸左右らしい丁寧さで断られる。

けれど私はあの子のためにどんな手段でも使うと決めたのだ。

「さゆちゃん、狩猟鳥獣を飼うのは犯罪になることがある。それに長く飼い続けるのはリスクが高い」

「なんですか。高いって値段ですか」

犯罪、と呟いたところで咲肝戸左右の表情が固くなる。

「お母さんと二人で決めました……」

「じゃあさゆちゃんのお母さんは間違っている」

私は彼女の知らないであろう言葉を並べ立てた。

その辺の鳥を勝手に飼育してはいけないこと。

許可証は得ているのか。

違法行為の場合懲役刑に処されること。

あなた母親はあなたをそれらの罪から守ってくれないということ。

咲肝戸左右の腕の中で丸くなっているこの生き物を手に入れなければ羽邪馬七桜はやまなおは生き返らないのだから。

「素直に渡せば黙っててあげるって脅すんですね」

「そう」

大切な命を身勝手な理由で取られたというのに咲肝戸左右の目はどういうわけか輝いていた。

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