私はこんななのに、いいの?
玩具が好き。
縫いぐるみが好き。
縫いぐるみだけは沢山買ってもらえたから好き。
動物園や水族館、博物館に行くと普通の玩具屋では買えない品が買える。
だって、オコジョの縫いぐるみなんてその辺の玩具屋には売ってない。
お祭りで買った金魚の玩具はゴムで出来ていて、実際の金魚を触った感覚に近いらしい。
実は生きている金魚よりも死体の、それも植木鉢とかに突っ込んだまま何日もたったあとになにかの間違えで掘り出されたような、
そんな金魚の触感に近いのだ。
「ふゆきちゃんはボールで遊ばないんですか」
私はこれが難しい文章でなくても良かったとそっと胸を撫で下ろす。
まだ言葉を紡いだ唇が震えていて、ほんのり痺れている脳の感覚を味わいながら
彼女の言葉を待つ。
「汚いから」
え、と思わず声に出してしまう。私は大慌てでその口を塞ぐ。
唾が飛んでしまったかもしれないから。
「唾を飛ばさないで」
やっぱり。
体まで、かかってないかな。
大丈夫かな。
彼女は掠っただけで正確に言うと轢かれたのは一緒に歩いていた
鱶羽譜由結の変化に親友の死が関係しているのは明白だろう。
彼女たちはいつも一緒にいたし。
一緒にいるだけで遊んでいるようには見えなかった。
笑い声も聞こえなかった。
私にはよくわからないけれどそういう楽しさもあったのだろう。
あと、あの日を境に鱶羽譜由結はトイレに行かなくなった。
「ボール遊びは、嫌いですか」
「ボールは皆が触れているものだから、触りたくない」
大人はこういうのを潔癖症というのだと言っていた。
沢山血を見ただろうから無理もないとも言っていた。
図鑑で見た人間の体には血以外にも色々詰まっていてそれらのお蔭で私達は生活できているようだけれど、
鱶羽譜由結は親友の体の中身を全部見たんだろう。
「さゆちゃんにはわからないと思うけど、羽邪馬七桜は死んでいない」
「…え?」
私はこれ以上彼女を汚さないように手を口に当てたまま答える。
死んでないってどういうことだろう。
死んでないのかな。
じゃあ、トラックに轢かれたのは嘘?
そんなつまらない嘘、誰かが得をするんだろう。
そういえば羽邪馬七桜のお葬式の話を聞いていない。
「なおはトラックに跳ねられて別の世界に行っちゃった」
「……それって、天国ですか?」
私達が住む世界以外があるとしたらそれは天国か地獄のどちらかだろうと思う。
鱶羽譜由結は「とてもあついところ」と言う。
熱いということは地獄だろうか。
鱶羽譜由結はあの一瞬で地獄を見たのだろうか。
「さゆちゃんは今も手が唾だらけで汚いのに平気でいるような人なので理解が及ばないと思う」
「……でも、エジプトの大人でも無理だったのに小学生にできるんでしょうか」
黄泉帰りには順番がある。
死者はラッパがなる日まで順番待ちをしていなければいけないし、
その日が来るまでは地下の洞穴の中で飾り物にされても、
置物に加工されて家に飾られても、
腐って床の染みになっても、
耐え続けなければならないのだ。
「私はこれからもっと酷いことをする」
「……協力しませんよ、私」
私でいいの?
私、こんななのに。
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