日記
■月15日
朝目が覚めると、指先に黒い海苔のようなものが浮いていた。
他の奴には見えないらしい。
なんだこれ。
明日ダンジョンに行くことになっているから、それまでには消えて欲しい。
■月2日
好きな人ができた。
まさか初恋の相手が同性だとは夢にも思わなかった。
家に帰ってからどうすることもできずこれを書いている。
きっと片思いで終わるだろう。それまでこの思いに耐えられるだろうか。
明日どんな顔をして会えばいいだろう。
■月6日
透き通るような銀色の髪、澄んだ黒い瞳。
彼の事を思い出すたびに胸が締め付けられるように感じる。
今すぐにも会いに行きたい。もっと触れていたい。
寂しいよ、奏。
■月27日
今度奏の家に泊めてもらえるらしい。親がしばらく出張で居ないからだそうだ。
二人きりということに興奮して年甲斐もなくはしゃいでしまい、奏に笑われた。
いつも無表情だからこそ、笑った顔が可愛くて仕方が無い。
それにしても二人きりだなんて、俺の理性が耐えられるだろうか。
今の『友達』という一線を越えないようにしなければ。
■月30日
奏の家に泊めてもらった。
何故か俺が奏の布団を使う事になり、眠るどころではなかった。
おかげでかなりの寝不足だ。
部屋もちゃんとくまなくチェックしたが、俺以外の人は連れ込んでいないようだった。
■月18日
奏の家の合鍵を作った。
これでいつでも忍び込める。
性能を調べるために今日は休んで鍵を使いに行った。
成功したので記念に奏の歯ブラシを持ち帰った。
■月2日
奏が女と話していた。
あいつの笑顔を俺以外が見るなんて許せない。
奏を見るのは俺だけで十分だ。離れろよゴミ虫が。
■月3日
昨日の女に手紙を送ったら学校を休んでいた。
いい気味だ。
■月20日
奏の周りにいる奴らが邪魔で仕方がない。
もういっそ全員殺せたらいいのに。
今日も奏は可愛かった。
■月29日
奏に告白したクソ野郎がいるらしい。
お前なんかには到底釣り合わねーよ、身の程を思い知れ。
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ
もう殺してしまおうか。
■月4日
初めて人を殺した。
不思議にも罪悪感は無くて、とても楽しかった。
生暖かい血を浴びるのは気持ちよかったからまたやりたいと思う。
死体は適当にダンジョンにでも埋めておこう。
■月8日
まだ死体は見つかっていないようだ。
捜索届が出ているのを見るだけで、口がにやけてしまう。もう死んでいるのに。
今日奏によく似た奴の夢を見た。あまり覚えていないが、確か真っ白で目が赤くて……猫耳が生えていた。
素直で怯えた顔もかわいかった。夢は凄い。
■月16日
奏が死んだ。
うそだ。
そんなはずない。
■月17日
奏の死体を持ち帰った。
月 日
奏奏奏奏奏奏奏奏奏かなでかなでかなでかなで
俺を置いていかないでよ何で先に行くの寂しいよ奏がいなきゃ俺が生きる意味もないし虫を始末してさらし首にしたのもまったく意味がないじゃないかこんなにも好きなのに尽くしたのにどうしていなくなるのおいていくの死んだ奏も眠っているみたいできれいで黒くなった血もきれいで見とれていたらいつのまにか手を出していたけどもう死んでるからいいよね奏の中気持ちよかったよああでも他の虫に最期を奪われるなんて嫌だ絶対に嫌だ奏は死んだときはどんな顔をしてたのかな絶望してたかな泣いてたかな笑ってたかな結局どれもきれいだろうけど死に際の顔もそいつは見てたってことだろ本当に気分が悪い最期まで見つめていたかったのに奪われた許せない奏の魂まで俺のものにしたくて頑張ったのに奪われた全て意味がなくなった許せない許せない許せない本当に殺してやりたい奏の肉も美味しかったなでも生きていなきゃやっぱり寂しいままで変わらないから早く会いたい生きた奏に会いたい息苦しい奏の体温が欲しい寒いよ会ったら抱きついて匂い嗅いで犯して閉じ込めてずっと一緒にいたかったのに今じゃもうそんなこともできない死んだ体を傷つけても虚しくて仕方がないよ会わせてよ神様お願いだから生き返って気持ちいよ怖いよ寂しいよ楽しいよ助けて会いたい会いたい会いたい会いたいかなでかなで会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい殺したい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい殺したい
あ、そうか
いまいくよ
だいすき
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「怖……」
読み終わって口をついた言葉はその一言だけだった。
黒海苔は恐らくグリッチの事だろうか。だとしたら、キャラにバグが乗り移るといったかなり面倒なことになる。
それにしてもこの怖すぎる日記を書いたのは誰なんだ。
奏の事を連呼していたから彼の世界の人物だろう。
奏が死んだ、と書いていることから、現在無限ループに入っている死神ゾーンの一番最初を見ればわかるか?
端末を操作して初めて奏が死神に殺されたシーンを呼びだし、再生する。
メンバー全員に見えた死体は確かに一人足りない。残ったあと一人。
通常の世界では一番にパーティーに加入する相棒的ポジションなのだが、この世界では何故か病んでしまったようだ。
「風見、日向」
その名前を呟く。
また対処しなければいけない問題が出てきた。面倒くさい。
この世界はどこまでおかしくなれば気が済むのだろう?
狂った世界とその日常 @denziparusuhou
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