第8話 うそから始まった恋物語
私が目を覚ますと、そこは豪華な部屋であった。
そして目を覚ますと同時に現れたのは、真っ白い服を着たカーボンであった。
「お~目が覚めたか? その服はどうだ? 気に入ったろ」
そういわれ私は目線を下ろすと、服装がウエディングドレスになっていたのだった。
何よこれ!? いつの間に着替えさせたの?
「安心しろ、女の使用人に着替えされたからお前の裸は見てはいない。まぁ、結婚すれば嫌でも見せてもらうがな」
「ぐっ! 誰があんたと何か結婚するか!」
「おいおい、もう婚約書にはサインしたんだ、結婚は決まったもんだ。それに先駆けて式を挙げるだけだ」
「ふざけるな! あんな脅しをしておいて」
私は動こうとしたが、足首が鎖でつながれており途中で倒れてしまった。
鎖? あり得ない、女子に鎖するとかどんな趣味してるのよあいつ!
カーボンを睨みつけるが、カーボンは不敵な笑みを浮かべながら見下して来た。
「どんなにあがこうが、もうお前の人生は俺の物なんだよ! この婚約書がある限り永遠にな! あははははは!」
と、カーボンが高笑いとした直後だった。
何処かしらから大きな爆発音が聞こえて来た。
「な、何事だ!」
そこへ走って使用人がやって来て耳打ちする。
「何!? 侵入者!? おいおい、ここは王都内だぞ? 誰が貴族家に侵入して来たっていうんだよ!」
「それが――」
直後二度目の大きな爆発音が先程より近くで起こり、私のいた部屋にもその爆風が入って来た。
すると扉の奥から使用人が吹き飛んで来た。
まさかの出来事に私もカーボンも目を見開いていると、奥から誰かがこちらの部屋にやって来る足音が聞こえ始めた。
「お、おおい! お前! 何してるんだよ、さっさと行って対処して来い! 使用人だろが!」
「は、はい!」
勢いよく返事をして一人の使用人は足音がする方へと向かって行くが、何かが凍りつく音が響き渡って来た。
そして遂にその足音がこの部屋に辿り着き、正体を現した。
その人物は黒い衣服を身に纏い、目元を黒い仮面で覆っていた。
「お前か。カーボンとかいう底辺貴族は」
「きき、貴様何者だ! 王都でこんなことするなんて生きて帰れると思ってるのか! 俺は王都の貴族だぞ!」
すると侵入者は目元を覆っていた仮面をとり、私はその人物を見て泣きそうになってしまう。
「……オウル」
「お前こそ俺を知っているんだろうな、国一の嫌われ王子と呼ばれている俺を」
「な!? ななな、何で貴様がここにいるんだ!」
「それはなっ!」
その直後一気に踏み込んでカーボンの襟元を掴み壁へと押し付けた。
「ひぃー!」
「気まぐれで元婚約者を奪いに来たんだ。だから、お前が持ってる婚約書を出せ」
「わ、分かった、分かったから離してくれ」
するとオウルは素直にカーボンから手を離すと、カーボンはすぐさまオウル目掛けて魔法を放つと爆発が起こった。
「バーカ! バーカ! そんな素直にする訳ないだろうが! こんな直撃で受けて無事で済む……わけ……」
目の前の煙が晴れるとそこには無傷のオウルが立っていた。
「ほぉ~じゃ、さっさとけりつけるか!」
「いやぁー!」
直後、カーボンの顔面にオウルの拳が叩き込まれ、カーボンがそのまま壁に激突し気を失うのだった。
オウルはそんなカーボンから婚約書を奪い取ると目の前でビリビリに切り裂き、最後に完全に燃やして存在を消すのだった。
そして私の方へと歩いて来て、足首の鎖を魔法で破壊してくれる。
「あ、ありがとうオウル」
私がそのまま立ち上がろうとしたが、オウルは突然私のことを抱き上げて来た。
「ちょちょっと! 何をするの?」
「聞いてなかったのか? 俺はお前をカーなんとか貴族から、奪いに来たんだよ」
「いやカーボンね。聞いてたけど!!?」
するとオウルは突然、近くの窓を突き破り外へと飛び出したのだった。
そのまま私を抱えたまま屋根伝いを走り出し、王都から城下町へと移動し始めた。
「オウル!? な、何でこんな」
「いいから黙ってろ! 下噛むぞ。イリスは黙って俺に捕まっていればいいんだ。帰るぞ」
そう言われ私はオウルに従いつつも、ギュッとオウルに抱き着きながら小さく震えながら呟いた。
「怖かった……怖かったよ、オウル……」
「……あぁ、もう大丈夫だ。安心しろイリス」
「うん……」
私は顔を隠しながら涙を流し、オウルはそのまま黙ったまま移動し続けた。
そして城下町を抜けると、そこには一台の馬車が止まっておりオウルはそれに乗り込んだ。
私はお姫様抱っこされたまま馬車へと乗った。
そのままオウルは馬車を操り移動し始めた。
馬車に揺られながら途中で私は眠ってしまったが、気付いたら私の屋敷の前に到着していたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数週間後。
私は何故か、何事もなかったかの様に普通に平和に暮らしている。
あの日カーボン家に強引に婚約させられ結婚までしようとしてきた事件は、カーボン家の暴走ということが王都から発表されたからだ。
私たちが何かを訴えて言ったわけでなく、王都で起きた事件の一件でそれが明るみになり発表されたのだった。
また、その事件の関係者とし私の家は公表されなかったので、そのまま黙ったまま私たちは今まで通り日常を過ごしている。
あの日突然王都の貴族がやって来たのは王家の命令だったとオウルに伝えると、オウルはたぶん自分のせいであると言葉を漏らした。
王家はオウルと親しくしている関係者が昔の歴史の秘密を知って、それを伝え広めようとしているんじゃないかと思い、接触していた私を強引に王都内に閉じ込めようとしたんじゃないかとオウルは推測した。
結果的には分からずじまいだが、こうなってしまった以上また似たようなことが起こりかねないとオウルは告げ、私たちとの接触をしない宣言をした。
が、それを止めたのはまさかのお母様であった。
これからそのような危険があるなら「巻き込んだ貴方が私たち弱小の貴族を守ってください」と伝え、それにお父様も「出来ればお願いするよ」と賛同するのだった。
それを見て私からも「秘密裏でいいから」と付け加えて頼み込みオウルは自分が原因で起きたことだと思っていたので、引け目を感じたのか引き受けることにしたのだった。
だがそれは渋々ではなく、イリスの大切な人たちを護るためであった。
そうして私たちの日常は一つだけ以前と変わった。
それは屋敷に、この国で一番嫌われている王子をたまに招く様になったことである。
「いらっしゃい、オウル」
「あ、あぁ」
「何、緊張してるの?」
「そりゃなあ、もう何度目かだが未だに慣れないんだよ」
「そんなに緊張されなくともいいのですよ、オウル様」
そしてヴィオラの案内の元、私とオウルは応接室へと入りヴィオラは退室する。
お母様とお父様は、オウルの事情は聞かずオウルも話さないという状況であり、基本的にオウルとは会わない。
それは、未だにどこかで完全にオウルのことを信じ切れていないからだと言っていた。
が、助けてくれた恩はあるので口は出さずに様子を見ている状態であった。
「ねぇオウル、聞きたいことがあるのだけどいい?」
「何だよ急に」
「前にさ、自分が傷ついてまで私の為にしてくれた時に、どうしてそんなことまでしてくれたのって訊いた時さ、嬉しかったからって答えたの覚えてる?」
「……」
「覚えてる?」
「覚えてるよ。それが何だよ」
どこか少し恥ずかしそうに言い返して来たオウルに、私は話し続けた。
「どうして嬉しかったからって答えたの?」
「……答えないと」
「ダメ!」
「はぁ~……分かったよ。それはな、その……」
「その?」
「人に必要とされたことが嬉しかったんだよ。何度も訊いても、俺でいいって答えてくれてそう思ったんだよ。変だろ! ほら笑えよ、あ~恥ずかしっ……」
顔を少し赤くしてそっぽを向くオウルに対して私は笑わずに答えた。
「変じゃないと思うよ。誰だって人に頼られたら、嬉しいじゃん」
「……」
「まぁ、国一の嫌われ王子って言われ続けてたら、そんな風にもなるよ」
「イリス、やっぱり変だと思ってたんじゃねぇか! 一瞬でもやっぱり、お人好しだなって思った俺がバカだったよ!」
「ちょっと! それどういう意味さ、お人好しが悪い意味になってない?」
「そんなことないですよ、うそつき令嬢様ー」
「はい、私に言ってはいけない単語を言ったわね! この国一の嫌われ王子が!」
「残念、それは慣れっこです」
「くぅー! なら、真っ黒王子! 変に緊張し過ぎ王子! 男らしくないぞ王子!」
「適当過ぎだろ! 何でも王子をつければいいってもんじゃねえぞ」
そんな私たちがたわいもない会話をする部屋の端には、動物のガラス細工がいくつか飾られているのだった。
うそつき令嬢と国一の嫌われ王子 属-金閣 @syunnkasyuutou
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