第9話 私の好きになった騎士団長様
事件後、私はシーラさんから一週間の休みをもらった。
その間屋敷の仕事は、代わりにウルが行う事になった。
しかもそれは、ウルから自分にやらせて欲しいと言い出しシーラに交渉していた。
シーラは少し迷っていたが、一週間ウルに任せる事にし雇い主でもあるアークにも伝えると、アークも拒否する事無く許可したのだった。
私はてっきり代わりのウルでは受け入れない思っていたので、少し驚きの展開だった。
一週間のウルとアークの関係などは分からないが、仕事は完璧にこなして帰って来るので、何とか上手くやれているのではないかと感じた。
そしてあっという間に休暇の一週間も終わり、今日から仕事復帰となりまだ継続しているアークの屋敷へと向かった。
今日はウルとペアとして仕事復帰で来る予定だったが、久しぶりの仕事で待ち切れずウルより先に屋敷に来てしまった。
「今日はやけに早いな、ウ――ってイリナさん!?」
「はい、イリナ・カディナです。今日から復帰しますので、またよろしくお願い致します! アーク様」
「お変わりがなくて何よりです。ウルは今日はいないんですか?」
「いえ、いるのですが。久しぶりの仕事で待ち切れず先に来てしまいました」
「ふふふ、イリナさんらしいですね。でしたら、中でお待ちになっては? まだ勤務時間前ですが、どうぞ」
「すいませんアーク様。では、お言葉に甘えて失礼します」
私は屋敷に入り、アークの後を付いて行くといつもの様にキッチン近くの椅子にアークは座る。既に机には紅茶が準備されており、私の分まで用意し始める。
すぐに自分でやると奪うように代わる。
その後アークに座るように勧められ、断るのも失礼だと思い向かいの椅子に座らせてもらう。
そのままゆっくりと紅茶を飲みながら時間が流れて行く。
「ウルが来るまで、少しお話でもしますか」
「はい、ぜひ」
「とは言ったものの、どうしましょうか……そうだ。何か私に訊きたい事はありますか?」
「訊きたい事ですか?」
「はい、何でも構いませんよ。まだ勤務時間前なので、使用人とお客様の関係でもないのでお気になさらずに、今気になっている事を言って下さい」
そう言われて、私が頭の中に浮かんだ事を口に出した。
「……では、どうしてウルを隠し子なんて言っているんですか? 子と言うより、弟とかではないんですか?」
「親が子を選べない様に、子も親を選べないからですかね」
そう言ってアークは話し始めた。
元々隠し子事件の発端は両親が騙されて婚約仕掛けた相手であり、ウルはアークとの子ではなかった。
が、後々調べた所屋敷まで言い寄って来た女性が連れていたウルは、アークの屋敷に勤めていた使用人との子供であったのだ。
しかもその使用人は、以前女性を妊娠させてしまい子供が知らないうちに産まれて金を要求され焦っていた。
そんな時に両親を騙そうとしていた奴らと出会って裏で協力し、その妊娠させ子供産んだ女性と婚約をさせようとしたいたのだった。
結果的には婚約は失敗に終わったが、使用人は捕まらず自分から女性に近付き、次は子供がいる事を武器に屋敷まで乗り込む強行作戦に出たのだ。
だが、これも失敗に終わり女性が捕まると使用人の犯行も分かり、その後共に捕まり事件は解決した。
そんな中アークは事件解決前から一つの可能性として屋敷内の誰かとの子なのでは考えてはいたが、証拠がなく言い詰める事が出来ずにいた。
そしてある日、アークは自分との婚約を迫る為に子供まで道具にした事に我慢がならなくなり一度相手の女性の後をつけていた。
その時に追求出来る様な証拠を掴めればと考えていたが、その時にウルが捨てられる場面を偶然見てしまう。
アークはウルをそのまま見捨ててその女性を追う事も出来たが、アークはそれをせずにウルに手を差し伸べたのだった。
目の前で起きた出来事は自分の甘さが招いた不幸だ、自分がもっと早く悪事を暴いていればこうはならなかったはずだと思ってしまったのだ。
自分勝手な思い込みであり、偏見であるとは分かっていたが、ウルを放って置く事が自分の中で許す事ができず手を差し出していたと語る。
隠し子と言っているのは、屋敷の父の世間体や雇っていた使用人が犯罪に関わっていたなど悪い噂が出ている中で養子を入れたなどと言っては、また根の歯もない噂が出ると思っていためアーク側から提案した事であった。
そのためウルは秘密裏に育てられ、なるべくアークも接する事無く育ったのだ。
初めは両親たちも使用人たちもウルを育てる事に猛烈に反対したが、アークが頭を下げて家のごたごたに巻き込まれ捨てられたウルを、自立するまででいいと言って強くお願いをしたのだった。
両親たちもさすがに何かを思ったのか、アークの願いを受け入れたのだった。
それからは変な噂が経たぬように厳重に育てつつ、アークはウルとはほとんど接触せず、あまり屋敷に目が向かず自分に周囲の目が向く様に騎士団の仕事により励み成果を上げ続けたのだった。
その結果、ウルは自立するまで育ちアークは成果を認められ、騎士団長まで上り詰めていたのだ。
「それ、ウルに言わないんですか?」
「墓場まで持って行くつもりだよ」
「私がうっかり、話しちゃうかもしれませんよ」
「いいえ、イリナさんはそう言いながら、そう言う事をする人じゃありませんよ」
アークは少し微笑みながら紅茶を一口飲む。
「はぁ~私、アーク様のそう言う所嫌いです」
「き、嫌い!?」
「はい、嫌いです」
「ち、ちょっとイリナさん。今の所を詳しく」
するとそこで玄関をノックする音が聞こえ、私は玄関へと向かう。
「あ、ウル来たかな?」
「イリナさん、まだ話が」
私はアークを置き去りにし玄関を開けるとそこには予想通りウルがいた。
が、何故か物凄く息切れしていた。
「やっぱり、いた、イリナ……勝手に行くなよ」
「ごめんごめん。待ちきれなくて」
そこへアークが顔を出す。
「また来たのかウル。今日からイリナさんが復帰なら、お付きはいらないよ」
「来ますよ、アーク様! あんたとイリナを二人っきりにさせるわけないだろ」
「何で二人っきりがダメなの?」
「それは、色々あるの! ほら、さっさと仕事始めようイリナ。で、あんたはさっさと騎士団長の仕事に行け!」
「おい、押すなってウル。それにまだイリナさんとの話が」
ウルはアークの背中を押して二階へと上がって行く。
私はその光景を微笑ましく見て、掃除道具を取り出し気合を入れる。
「さーてと、私もお仕事始めますか!」
私の好きな騎士団長様には、隠し子がいた 属-金閣 @syunnkasyuutou
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