第8話 月明かりが照らす者
「……っう、ここは」
「目を覚ましたか、ウル」
「何で……あんたが……」
ウルが目を覚ますと、そこにはアークが覗き込む体勢をとっていた。
「目を覚ました直後で悪いが、何があったか教えてくれ。イリナさんはどうした」
「っ! そうだ、イリナはいなのか?」
そこで急にウルは起き上がるが、猛烈な腹部の痛みにベットの上で縮こまる。
その様子からアークは察したのか小さく呟く。
「襲撃。その反応からイリナは攫われたか、それとも人質か?」
「ぐっぅ……何言ってんだよ、あんたは」
「お前には関係ない」
「関係ある! イリナは俺の後輩で、大切な店の一人だ!」
それを聞きアークは少し黙ってたが、周囲に他の兵もいたため小さくため息をつき口を開いた。
「先月捕まえた奴が逃げ出して、私の屋敷を突き止め逆恨みで襲撃して来たんだ。話は以上だ、怪我人は黙って寝ていろ」
アークはそのままウルの元から離れて行こうとするが、ウルはアークのマントを掴んだ。
「離せ」
「嫌だ」
「嫌がらせなら、後にしろ」
「嫌がらせじゃない」
「攫われたイリナさんの命がかかってるんだ! 早く離せ!」
突然の感情的な怒鳴り声に、周囲の兵士たちは驚くがウルはうっすらと笑っていた。
「あんたイリナを雇ってから変わったな」
「何の話だ? お前にかまってる暇はない」
「昔だったら、誰が誘拐されようが危険が迫ろうが、さっきみたいに感情的になる事はなかっただろ」
「っ」
「あんたにもそういう感情があったんだな。そうでなきゃ、一か月も継続でイリナを指名し続けないもんな」
「何が言いたい?」
そこでウルはギュッとアークのマントを引っ張り、自分の方へと引き寄せた。
「救出に行くなら、俺も連れてけ」
「何を言っているんだ、お前は」
「連れて行かねぇならここで、俺がお前の隠し子だってバラす」
まさかのウルの発言に、アークは顔を歪めた。
「どうする? 俺は本気だぜ。信用されないと思っているかもしれないが、昔の写真まだ持ってんだよこっちは」
「……脅してまで、どうして救出作戦に参加しようとする?」
「そんなの決まってるんだろ、あんたにだけいい顔させない為だよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次に私が目を覚ますと、そこは見知らぬ廃墟であった。
周囲は暗く明りは目の前の柱に魔道具が引っ掛けれており、そこから周囲を照らしているのみだった。
私は地面に座り手は後ろで鎖で縛られており、足には枷がされて逃げ出す事が出来ない状況であった。
更には口元も塞がれており、声すら出せない状況であった。
どう言う事? 何がどうなってるの? ここは何処なのよ!?
もがきながら、何とか手だけでも自由にならないかとジタバタしていると、そこに二人の人物が現れる。
「あれ? 何か音がすると思ったら、起きたのね?」
「おっ本当だ。あ、逃げようとしても無駄だよ。君を縛っているの剣で切ったりしないと絶対にとれないから」
誰、こいつら。
てか、完全に何かの事件に巻き込まれてるよね、これ。
そんな風に思って男たちを睨んでいると、更に奥から一人現れる。
私は現れた人物を見て驚愕した。
その人物は初めての仕事先で、私を剣で殺そうとした人物であったのだ。
「よぉ、久しぶりだな。覚えてるか、俺の事?」
どうして貴方がいるの!? 捕まったんじゃないの?
「何が言いたいかよ~く分かるぞ。俺は最近脱獄したんだよ。で、恥をかかされ捕まえてくれたあの団長に復讐しよと決めたんだよ」
復讐? そんなのただの逆恨みでしょ! そっちが悪い事してたんだがら、捕まるのは当然でしょ。
「で、どう復讐しようかと思ってたらあいつに隠し子が居るって噂を聞いてな。そして部下が屋敷を見つけて様子を見ていたら、お前がそこに入って行くじゃねぇか」
そりゃ、派遣使用人で依頼が来たんだから当然でしょ。
「しかも、やたらと仲良さそうにしてよ。で、そこにある情報でお前があいつの隠し子だって聞いてよ、思いついちまったんだよ復讐をよ!」
……はい? 何を言っているの、こいつ。
「あいつが居ない時に襲撃して、お前を攫ってあいつに屈辱を味合わせてやろうってな! あの日お前があそこに居たのも偶然じゃなかったって事だろ。もう分かってんだよ! だから、あの団長に復讐の為にあいつの前でお前を殺す!」
あ~話がややこしくなって来てる! てか、年齢を考えなさいよ! 誰が誰の子だって? 普通に考えればあり得ないでしょが! あんたに私はどう見えてんだっての!
そう反論しようにも口を塞がれている為、もごもごと言う事しか出来ず更には相手の男は既に勝ち誇った様に高笑いをしていた。
私はそれを見て少し呆れた顔をしていると、突然高笑いを止めて私の顔を見て来た。
「お前、今俺の事馬鹿にしたろ?」
何その急な勘のよさ……怖すぎるんですけど。
すると男は近くにいた男から剣をもらうと急に振り上げた。
え、ええ!? ちょっと! 待ってこの展開前にも……
「気分が変わったわ。お前からヤるわ。そしてずたずたにした身体をあいつに見せつける」
そう冷たく男が言い放った直後私に向かって剣が振り下ろされる。
が、そこに何処からともなく剣が飛んで来て私の前に突き刺さり、男が振り下ろした剣から守ってくれた。
「何!? 誰だ!」
男の言葉と共に、近くにいた男たちも警戒態勢をとる。
暫くの静寂が続いた後、月明かりが廃鉱内を照らした時だった。
私の背後の壁を乗り越える様に、二人の人物が現れた。
「な、何でお前がここに居るんだ! 第三騎士団長!」
「それはもちろん、お前を捕らえる為だ」
そう告げるとアークは剣を持った男を蹴り飛ばすし、もう一人の人物に声を掛けた。
「ウル、お前はイリナさんを護れ」
「分かってる」
アーク様にウル!?
するとアークが残っていた男たちの相手をしようと向くが、一人がウルに向かって突っ込んで行く。
「ウル!」
「ガキが! 調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」
「その声、お前が俺をあの時蹴っ飛ばした奴だな!」
突っ込んで来た男はウル目掛けて拳を叩き込むが、ウルは瞬時にそれをかわし相手の背後へと回り真横から頭部目掛けてかかと蹴りを叩き込む。
それをもろにくらった男がよろめくと、ウルが追撃として脳天にかかと落としを食らわせてノックアウトさせた。
「お返しだ」
その間にアークは一人片付け、残るは脱走した男となった。
だが男は逃げずにアークへの不意打ちを仕掛けた。
「アーク!」
と、相手に背を向けていたアークにウルが名を叫ぶ。
その声に反応してアークは瞬時に振り返り、迫って来る男に向け氷結魔法を放ち、完全に動きを止めたのだった。
そしてアークはウルの方を向くが、ウルは直ぐにそっぽを向き私の方へと駆け寄って来た。
「大丈夫か、イリナ」
「……ぷはぁ、うん。何とかね。でも驚いた、ウルまで助けに来てくれたんだ」
「うん。だって、俺イリナの先輩だしな」
「そんな理由?」
「オリックも言ってただろ。先輩は後輩の面倒を見るんだって」
ウルはそんな事を言いながら、剣を使って私の足枷を外そうとしてくれたが、なかなかうまくいかなかった。
するとそこにアークがやって来て、ウルをどかすと一瞬で足枷を斬ってくれた。
「ありがとうございます。アーク様」
「イリナさんが無事で安心しました」
そう言って、私の手の鎖もアークが斬り解放してくれた。
すると突然アークが私に向かって頭を下げた。
「イリナさん、今回の件は騎士団の責任だ。あの犯罪者の脱獄を許し、更にはイリナさんを巻き込んでしまい危険な目に遭わせてしまった」
「でも、また助けてくれたじゃないですかアーク様」
「おいおい、それで許すのかイリナ。こいつの言う通り、今回はこいつのせいだぞ。そうでなきゃ危険な目にも合わなかった」
ウルがそう口を挟むと、アークはぎろっとウルを睨む。
するとウルはそっと目線を逸らした。
「ウルの言いたい事も分かるけど、捕まったのは自分がウルの言う事を聞かずに勝手に動いたせいでもあるし。私がアーク様を責めるのはちょっと違う気がしてさ」
「……イリナは少し優し過ぎる。でも、こんなに謝るこいつを見れるのはイリナのお陰だし、いっか」
「ウル。お前さっきから少し口が過ぎるんじゃないのか?」
「そんな事ねぇーよ。事実を言っただけだ」
「おやおや、騎士団長を脅した事を忘れたのかな? どれだけの重い罪になるか、分からせてあげようか?」
「それ言うなら、あんたは俺の言う事飲んだんだ。自分からあれを公にする気かよ?」
何か知らない間に少し仲良くなった? と、一瞬私は思ったがそれは私の勝手な思い込みだとして仲裁に入ろうとすると、周囲からぞろぞろと男たちの仲間がやって来た。
「はぁ~やっぱり残党がいたか」
アークはそうため息をついた直後、頭上に一つの明りを魔法で打ち上げる。
すると、周囲を包囲する様に第三騎士団の兵士が現れ一斉に残党を捕縛し始め、全員を捕らえ連行し始めるのだった。
こうして犯罪者の脱走兼誘拐事件は一件落着した。
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