桜会議
十余一
桜会議
咲くべきか咲かぬべきか、それが問題だ。
さらさらと流れる小川に沿って桜の木が並び立つ。風は無い。ただ、春の訪れを感じさせる暖かな陽射しが降り注いでいる。この麗らかな陽気の中で問う。
「咲くべきか。それとも、咲かぬべきか」
「
「時期尚早ではあるまいか」
「否、
誰が発言しているか等は
「直ちに満開とは
「
「祝宴を張るまで待つべきである」
「
多くの人々が訪れる祝宴まで、十日以上はあろうか。それには月を
「人に
「観衆無き
「
数年前の
「其は過去である。では今、憎むべきは何か。
「
「
「
「亡き頼朝公にあやかり、遠き伊豆より参った」
「なればこそ人々に再起と隆盛を示すべきではないか」
「いざ、
◇
「なんていう会話を、していたのかもしれないねぇ」
のんびりとした様子で友人が言う。
「丁度、お祭りの日に満開になってよかったね」
「そうだねぇ」
東屋から坂道へ目をやれば、咲き誇る夜桜が延々と続いている。小川にかかる橋を渡り、灯篭に照らされた坂道を登り、続々と花見客がやってくる。目には桜、口元には感嘆の溜息を
この桜の名前は
そしてこの町では、本場の河津町から譲り受けた桜を“頼朝桜”と呼び慕っている。石橋山の戦いで敗れた源頼朝が、東京湾を渡ってこの地に辿り着いたという伝承があるからだ。やがて頼朝は鎌倉へ入り、平家を追討し幕府を開く。
その再起の物語と美しい花は、見る人に希望を与えている。それは私も例外ではない、と思う。
「被災したときはどうなることかと思ったけど、こうしてまた日常に戻れて良かったね。お祭りもできるし」
「一ヶ月以上もインフラ不通だったもんねぇ。あんなのはもう二度とごめんだよ」
崩れた土砂や吹き飛ばされた
「前と同じようになるには、また何年もかかるんだって」
「台風の所業、許すまじ」
「まだそれ続いてたの」
一人芝居の続きに思わず笑ってしまった私に、友人はまたのんびりとした調子で言う。その目には、か細いけれど強く咲いている桜が映っていた。
「まぁ、苦難からの再起っていうのも、頼朝桜らしいのかもしれないねぇ」
桜会議 十余一 @0hm1t0y01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。