002.『踊るように生きる』
「ちょっと大胆すぎるんじゃない?」
そう
「かわいいでしょ?」
そう言ってルナは目を細めた。
昼下がりのフラマリオンの円形広場には
その中でその白く透き通るような肌をほとんど隠さない衣装を身に着けるルナは日の光を浴びてまぶしく、異彩を放っていた。宝石と金属から成る髪飾り、ピアス、ネックレス、ブレスレット、指輪、アンクレットが繊細で
またその一方で少し幼さを残し化粧っ気がなく小ざっぱりした端正な顔立ちと清潔感のある黒いストレートの髪と細い体のため、それだけ大胆な衣装を着ていても彼女からは下品な印象がまったく感じられず、むしろ品さえ感じさせた。そうであればこそもっと
「男の人から変な目で見られるんじゃない?」
広場の一角の喫茶店のテラス席に座る
「男の人が喜んでくれるならいいじゃない」
それを聞いた
「娼婦みたいなことを言うのね。そのうち裸で踊り出したりしないわよね?」
ルナは噴き出すように
「まさか。裸は下品じゃない。それに捕まっちゃうわ。私はたくさんの方に私の踊りを見てもらいたいの」
たしかにルナの踊りのうまさと人間性と本来の美しさ、そこに衣装の大胆さが加われば様々な人々から人気を博しそうではあり、
「そもそもルナはいつから踊ってるの?」
ティーカップから口を離したルナはあっさりと答えた。
「ずっとよ。この世界に来る前から」
踊りはルナにとって文字通りのライフワークなのだと知った
「
いつもロングスカートばかり履く
「やめて恥ずかしい」
ルナは嬉しそうに目を細めた。
「
やや落ち着きを取り戻した
「そんなことないわ。それにみんなびっくりしちゃうわ」
ルナはまだ
「だからいいんじゃない。いつもおしとやかな
「初めてこの街を訪れる人が私のそんな姿を見たら変な街だと思われちゃうわ」
ルナは少しきょとんとした。
「あら、そんなことないわよ。それに
「あの子はあれが似合ってるからいいのよ。それにあんな小さな子をそんな目で見る人なんていないでしょ」
ルナは口角を上げた。
「あなただってきっと似合うわ」
ルナの追及に心の中で白旗を上げた
「やめて」
一しきり
「でも本当にあなたのおかげね。こうやって旅ができたり、踊れたりできるのも」
急に神妙な話を始めたルナに驚きつつも
「そんなことないわ。まだ戦争は続いてるし、みんな困惑してる」
自責の念を感じているであろう神楽を
「少しずつ何もかも良くなるわ。それに弱さも人の魅力じゃない」
「あなたって本当に不思議よね。サバサバしてるというか、何でも許容しちゃうっていうか…」
そんな風に評されたことのないルナはティーカップを両手で包みながら少し戸惑った。
「私は…、ただ見たものをそのまま表現してるだけ。喜びも悲しみも、愛も戦いも、絶望も希望も、ただそこにあるものとしてそのまま受け止めて踊りにするの」
ルナらしい答えだな、と
「随分達観してるのね」
今度はルナが
「そんなことないわ」
そういえばこれだけ長い付き合いなのにルナが悲しんだり苦しんだり怒ったり怖がったりしているところを
「ねえ、ルナって旅先で恐怖を感じたり、うまく踊れなくてもどかしさや悔しさを感じることってないの?」
ルナは「そんな馬鹿な」という笑みを浮かべた。
「あるわよもちろん」
「でも私ルナのそんな表情一度も見たことない気がするの」
ルナはそれを聞いて
「そうね、顔に出す前に心の中で
「そうね、きっとそうするって決めたからだと思うわ」
「『踊るように生きる』って決めてるの」
まだルナの言葉に理解の及ばない
「『踊るように生きる』…?」
一つ
「そう、何ていうか…、いろいろな苦しいことやつらいことや怖いことがあるでしょ? でもそれに真正面から立ち向かってぶつかっちゃったら私の細い体なんてあっという間に壊れちゃう」
再び
「だから踊るの。全身の力を抜いて、それをしなやかに使う。大きなものや固いものがぶつかって来たら、ぶつかられた勢いそのままに身を泳がせ、しならせる。風にも雨にも逆らわず、まるで
「自分や自分の周りで起きたことは変えられないでしょ? だからそれをありのまま受け入れたり、受け流したりするの」
ちょっと聞くと悲観主義者の考え方にも聞こえる。また楽観主義者の意見にも聞こえる。でもきっとどちらでもない、と
「みんながあなたみたいだったら、きっと戦争も起こらないし、こんな世界も必要ないのにね」
ルナはちょっと驚きつつ笑って肩をすくめた。
「いいのよ、そんな不器用なところも人間じゃない。みんなが私みたいにサバサバしちゃったら、私そんな世界嫌よ。そんなところで踊りたくない。色んな人がいて、色んなことが起こるから、私はそんなみんなの前で踊るのが楽しいの」
白い日差しとその照り返しで白昼夢のように
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