003.『闇に咲く光』1
そうじゃない生き方もあったと思う。
たくさんの人を傷つけた。もう償えない。どうしたって取り返しがつかない。一番謝りたい人はもういない。
ずっと同じことを繰り返してる。ずっと同じことを繰り返し続ける。
「たすけて」
少年は床の固さと冷たさで目を覚ました。彼は小さく
彼はゆっくりと重い足取りで歩き出した。アーチ状の出入り口をくぐると、日の光はその先が見えないほど強くなった。彼は目を
「ここは…どこだろう…」
「フラマリオンだよ」
不意に少年の耳元で明るい女の子の声がした。少年は心底驚いて声のする方に慌てて体を振り向けた。するとそこにはやはり少女がいた。しかし少年は彼女の姿を見てさらに大きく目を見開いた。栗色のポニーテールの髪に
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな」
そう言って彼女は少し悪びれるように微笑んだ。彼女の表情や言葉は友好的だったが、驚きのため少年は彼女に返す言葉を見つけられずにいた。そんな少年の混乱をよそに少女は言葉を継いだ。
「ようこそフラマリオンへ」
やはり何と返して良いかわからない少年は仕方なく胸に去来する疑問を素直に口にしてみることにした。
「ここは、どこ…?」
「フラマリオンだよ」
彼女は先ほどと同じことを言った。しかしすぐに質問の意図を履き違えたと思ったのか彼女は訂正した。
「ああ、この世界の名前? それならムーングロウ」
親切そうで愛想の良い少女に対し少年はいつしか警戒心をおおよそ解いていた。彼はおそるおそる質問を重ねた。
「君は…誰?」
少女はにっこり笑った。
「私? 私は
「樹李…」
少年はその名を復唱した。
「こらこら、お客様が混乱しているでしょう? 樹李」
その声は階段の方からした。建物を出たところで唐突に樹李に話しかけられた少年は気付かなかったが、丘の階段を上って若い女性が近づいて来ていた。声の主はまさにその女性だった。
「相手を唖然とさせるような挨拶をするなんて、本当にいたずら好きね」
樹李は声の主に向き直って弾けるような笑顔を見せた。
「
若い女性は階段を上りきると中空に浮かぶ樹李の隣で足を止め少年に向き合った。それは古風な白いドレスに身を包む
「初めまして旅の方。私は神楽と申します。この街の管理と旅人の案内をしている者です。どうぞお見知りおきを。ようこそフラマリオンへお越しくださいました」
そう言って神楽と名乗った女性は綺麗なお辞儀をした。少年は慌てて会釈した。
「いえ、あの、すみません、僕は…」
樹李にも自己紹介をしていなかったことにようやく気付いた少年は、その焦りもあって慌ててそう言いかけて言葉を失った。
「僕は——」
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