第2話 新世界国際劇場 ご利用上の注意

  この映画館、地下はポルノ映画(3本800円)で、1階と2階席は普通の映画館(3本1,000円)です。3本の上映作品は、一週間で更新されます(毎週水曜日)。

  映画館に向かって左手には、一般・普通映画のポスターや写真、右手にはポルノ映画のポスターや写真が設置されています。

  50年前の日活ロマンポルノは、日本の明治・大正・昭和の歴史や、昭和40年代の社会を鋭く激情的にえぐり出していた、という点で大学の授業に使われてもおかしくないくらいハイレベルでした。

  この映画館の地下で上映されているポルノ映画も、同じものを期待できるかもしれませんが、あまり見たくない・体験したくない現実かもしれないので、こちらの「地下」は開拓していません。

良い点;

  ① いくら大画面のパソコン・モニターでも、当然ながら映画館の画面には敵わない。

  といって、単に映像や音響の迫力といった問題ではありません。

  やはり、映画は映画館で観るもの。バスや電車に乗り、テクテク歩いたり・ギィコギィコ自転車を漕いで行き、切符を買い、入り口でちぎってもらった半券を握って劇場に入り、自分の目と頭で席を選んで座り、ブザーの音と共に室内が暗くなり、なんていう一連の手順を踏むから「感じが出る・映画を実感できる」というもの。

(ロードショー映画館と違い、ここは気に入らなければ、いつでも席を変えられる、好きな部分から見始め好きな時に席を立って出ることができる、という自由度がある。小中高のクラスではなく、大学の大講堂の授業、という感じです。)



  ② 俳優の顔も演技もプラスチック成型的、(黒澤明が口にしていた)弱い脚本、撮影技術は貧相な文化がそのまま映像に顕れる、と人・ストーリー・映像すべてがテレビドラマの域を出ない(映画にするまでもない激情の希薄さ)の三国人映画。

  第二次世界大戦における戦勝国でもなく戦敗国でもなく、ただただ被害者面をして戦後を(激情無しで)安穏と生きてこれた、この二国(韓国・台灣客家)の作品は、当劇場で観た作品に限って言えば、今まで一度も最後まで観たことがない。ストーリーや映像以前、映画製作者たちの激情を感じられないから、途中で寝てしまう(「警官の血」「君だけが知らない」「紅い服の少女」「ステラ SEOUL MISSION」)。  

  「ばかばかしいストーリー、へたくそな演技で隠した真実の叫び・激情」などまるでなく、表も裏もただのバカでは、映画としては完全に格落ち。

  その意味では、むしろC(Cheap)級映画というべきか。

  一方で、インド・中国・欧米映画には、今日の社会問題を狂気的なストーリーで取り上げたり・過去の歴史の誤認識に対する捨て身の批判といった、しっかりとした主張のある骨太作品が多い。

◎ 社会の不条理を鋭敏にえぐり出し、映像技術に文化を感じさせる欧米の映画(「フラッグデイ」「MEN 同じ顔の男たち」「ドライビング・バニー」)。

◎ 「コロンブスがアメリカ大陸を発見したから原住民が滅んだ」なんて、歴史の真実を堂々と述べる中国映画(「スノー・モンスター」2019年製作)。

◎ 「インド人一人殺すのに鉄砲の弾一発でも使うのはもったいない、棍棒で殴り殺せ」なんて英国人に言わせる(英国による植民地時代を描いた)インド映画(「RRR」)。

三国人の甘ったれたへなちょこ映画と中印欧の骨太映画との対比、これが楽しめるのもこの映画館の味わい。映画に於ける味噌とクソとを対比させ「3本1,000円の映像文化」を生み出す、この映画館主宰者の文化力。

  なにしろ、こちらの館主、映画館前の大看板に「星一つ、一点続出 !」「クレージー低評価劇場」と、堂々と大書きしているところは、この劇場で上映される骨太映画同様、映画文化人としての自信と気骨を感じさせてくれます。


③ いつでも空(す)いている。

  1階は200席くらいあるのですが、いつでも10~30人くらいしかいない(私は夜しか知りませんが)。オールナイトでは、肘掛けがあるにもかかわらず、器用にも「横になって寝ている」人が、必ず何人かいる。



この映画館の難点;

① 消毒剤の匂いがきついトイレ

② オカマちゃん狙いの男たちが多い

③ (ギリギリの温度設定の為か)冬は寒い


しかし、

① トイレの床が濡れているのは水洗いしているからだし、匂いのきつい強力な消毒薬で洗浄しているのであれば、それだけ清潔ということ。大の便器は全て日式でシンプルですから掃除もし易いでしょう。

② たまに、オカマちゃんを軟派しているオッサンが座席で立ち上がっていると、「なにやっとるんじゃい。座らんかい、ドアホ !」なんて罵声が飛んだりして、映画以外にもサプライズ(激情)を楽しめる。

③ 寒いといっても、厚着をしていれば十分眠れるレベル。お煎にチョコレートでも持っていけば温まります。


  オカマさんは1階席の前5列(の端っこ辺り)にしか座らないし、ナンパ目的のオッサンたちもそこに集まる。尚、2階席に関しては、私は行ったことはありませんが、(ネット情報によると)よい子の皆さんにはお勧めできない場所のようです。


  私はいつも1階席の、中央を十文字に区切る通路の真ん中(10列目あたり)にしか座らないので、彼らから声をかけられたことは一度もありません。「そういうこと」に無関心の者には近づかない、という彼(女)らの「決まり」でもあるのでしょうか。


○ 因みに、女性のみで行くのは止めた方がいいでしょう。「女装」と間違われて男性たちから声をかけられ、映画を観るどころではなくなるであろうから。

  アベックで行くのもどうかな、という感じ。まあ、私のように劇場の真ん中辺りであれば、そして昼間の時間帯であれば、映画鑑賞を邪魔されるようなことは無いとは思いますが。


○ 毎日オールナイト

  私は深夜0時から朝5時半くらいまで、煎餅やビスケット、お茶を持参して3本の映画を鑑賞します。朝6時頃、ラッシュアワー前の駅や電車内というのは、様々な深夜仕事明けの人たちが見れて味わいがあります。シャーロック・ホームズのように、彼や彼女たちの職業を推理したりして。

  映画の前に銭湯(500円。飛田新地近くの、大阪の夜空が見える露天風呂のある大きな銭湯・日の出湯)に浸かり、2・3時間ゆっくりしてから行くので、映画を観ながら寝てしまうこともあります。

  西成地区には、一泊1,200~1,400円という宿もありますが、私はバスでも映画館の座席でも熟睡できるし、大阪の銭湯文化(サウナや様々な湯船、露天風呂、脱衣所には洗濯機と乾燥機、新聞や雑誌という世界)を味わうのも好きなので、一泊くらいなら断然「銭湯と映画館で計1,500円」です。

  尚、通天閣の下、映画館から約50メートルの所に一軒銭湯があるようですが、入ったことはありません。おそらく、ああいう観光地(繁華街)の銭湯では狭くてゆっくりできないでしょうから。


○ (毎日)オールナイトといっても、この映画館は朝の上映開始から、翌朝5時半頃の終映まで1,000円でいられます。途中で外出し(40分間制限)食事に行くこともできます。

  いかにも大阪らしい、融通が利くというか合理的なシステムです。


大阪スタイルの銭湯とB級映画上映映画館。

通天閣昇らんでも大阪味わえるでぇー。


続く

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B級映画の社会学(大阪 新世界国際劇場で知る激情)V.2.1 @MasatoHiraguri

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