第39話 傍楽、木胡桃奇譚

不出の誓いTake2『傍楽、木胡桃』

「先生は和田のことを、愛のビンタで叩こうと思います。

和田あ! しっかり歯あ喰いしばれえ!」

「せんせえ、違うのっ! 唱くんはふざけてなんかいないっ!」

 ガールフレンドの樹里が立ち上がり教師と唱の間に割って入る。

「ありがとう、樹里ちゃん。でも、もういいんだ……」

「よくないよっ、それ、立派なはたらく人じゃない!」

 唱の机に置かれた、ピンク色の熊のぬいぐるみのイラスト。

広告代わりのベージュの看板を掲げて佇んでいる。

「仮にだ、ぬいぐるみが働いていたとして、それを認めたとして

どこが汗水流して働く職業なんだ?」


 和正が嘲笑うように教師を指差す。

「先生は何にも知らないんだな。ぬいぐるみの中に人が入ったら

どれだけ蒸し暑いか、を」

和正が勢いそのままに、ぬいぐるみの頭を取って、

額の汗をぬぐうパントマイムを敢行してみせる。

「ぐぬう……。だ、だったら、頭を小脇に抱えた立ち姿でもいいじゃないか!」

 引き下がらない先生に、和正

「だからあ、WEAR A HEAD! なんだってえ!

蒸し蒸しMAXが着ぐるみさんの頑張り所じゃんか!」

 小脇に抱えた透明の頭を被り直し、貧血気味にふらついてみせる和正。


下校、和田家にて……

「そう、これがその働く人の絵なのね!」

 唱の絵を眺めて嬉々とする母親の麗美。

「樹里ちゃんと和正くんが弁護してくれたんだ!」

 飛び切りの笑顔で息子の話を聴く母親。

「そう、いいお友達を持ったのねえ」

 母に促されて改めてそう思う唱。

「お母さん、この絵、すっごく気に入った。飾ってもいいかしら?」

「ありがとう、母さん。友情の絵、家族の絆、だね!」

 友情、絆……胸に刻み付ける麗美

「上手にまとめたわね。そう、あなたたち三人が守った絵なのよ」

台所のメモ用紙にボールペンで走り書きする母親、麗美。

「傍楽、木胡桃。この意味が判るようになったら、

もう一度、同じテーマで描いてご覧なさい」

働く、着ぐるみは、今日もどこかで、汗を拭き拭き。

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先ず我より始めよ 作家:岩永桂 @iek2145

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