第38話 RINGRING

『押し入れから貞子(笑)』KAZUDONAさん提供


う…、目が覚める。また魘されていた、全身汗だく。誰かに乗られているかの様に体が重い。不快だ。


 私は大学進学を機に地元を離れ、安いアパートで一人暮らしを始めた。最初は自由で親から小言も何も言われない、この生活が楽しかった。だが…、徐々にその自室で奇妙なことが起き始めた。


 最初は特に気にも止めなかった、安いし古いんだし、多少の問題くらいあるだろうと。やたらと停電になったり、TVが急に消えたり、棚から物が落ちたりと。電気の調子が悪いとか、床が完全に水平になってないのだろうとか、その程度。特に異状はないと電気工事業者の人に言われた。


 それが一月程経った頃から、明らかな異常を感じるようになった。常に誰かに見られているような気がする。後から。特にリビングで押し入れに背を向けているときは顕著だ。視線。薄気味悪い、でも何かを訴えて来る様な視線。振向いても当然何もいない。


就寝時には必ず夢を見る。自分ではない女性になった自分が殺される夢。いつも同じ女性。目が覚めると体が、頭が重い。今も纏わりつく様な酷い汗で体がべとつく。シャワーを浴びてから登校しよう。


「うわっ、酷い顔…。隈がこんなに。ちゃんと寝てるのにな」


 べとついた服を脱ぎ、浴室でシャワーを浴びようとして蛇口を捻った。


「え…、え? な、何これ…、 ひっ…、あ、ああああ」


  血? 髪の毛? その場に尻もちをつく。シャワーから粘り気のある血液の様な黒ずんだ赤い水と、毟り取られた様な長い黒髪の毛が流れて来る。すぐに震える体で、きつくシャワーを止めた。ポトポト、とまだ垂れて来ている。…吐き気を催す程気持ち悪い。生々しい血の臭い、体に絡み付いた毛を手で剥がす。


「っ、誰⁉」


 後ろから視線を感じた。振り向くが誰もいない。


「うっ、おえええっ…」


 血の臭いで嘔吐した。ダメだ、一旦出よう。浴室から出て余計に汚れた体を拭いた。だがタオルには何の色も付かない。洗面所の鏡を見る。フッ、と鏡面の中で、私の後ろを誰かが横切り、目が合った、様な気がした。血塗れで長い黒髪の女性。見たことがある。


取り憑かれたかの様に後を追い、まるで誘われるがまま押し入れの引戸を開けた…。


今私は新しく借りた綺麗なアパートの一室に住んでいる。母親も一緒に。

あの後、大家さんから聞いた。過去にあの部屋で殺人事件があり、被害者の女性が押し入れの中で発見されたと。だが私が住む前に同じ様な目に遭った住人はいなかったとも。

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「怪談」です。1000字で書いて下さい。女主人公。一人称。

引っ越してきたアパートに怪異が起こり、結局は、その部屋で殺されて

押し入れから死体が発見されたことがあったという話を大家から聞くという

「定番」中の「定番」。


 本文の文字数は999文字の「怪談」で、一人称の女主人公もクリア!

アパートで怪異現象が次々と起こり、最終的に大家さんから

「押し入れから貞子(笑)」状態を暴露される。

貞子の後ろに(笑)案は、作者のKAZUDONAさんと一緒に考えた。

KAC2023の投稿が盛り上がる中、

ぬいぐるみネタはうたた寝しながら考えるとして

今は、KAZUDONAさんの複雑な感情が入り混じる

この傑作怪談の公表を急ぎたい。


 浴室のシャワーのヘッドから

血液とも毛束とも判らぬものが「ドバーッ」は恐かろうて。

想像しながら、作品に寄り添いながら、入浴を済ませる。

流石に鏡の前には、おいそれとは立てない。

 何かが映り込む鏡の前で、誰かと目が合ったら、

それはもう一巻のおしまいで。

首を左に傾けると、漆黒の押し入れが口を開く。

か弱い貞子の「喜」「怒」「哀」「楽」はいかほどに?

出来れば笑って出て来て欲しい、君に逢うのは幾星霜?

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