第8話大福

「こんばんわー。君何歳?」

 俺は警察官。毎日夜のパトロールで上記の言葉を言っている。

ここ最近深夜徘徊する少年少女が増えてきた。

理由は分からない。

彼らを見つけ次第補導しご両親に引き渡す。

一見普通に見えるが果たして本当にこれでいいのだろうか。

 小学生の頃から警察官になるのが夢だった。

かっこいいから。理由は単純だった。

面接では、「町の人々の役に立ちたい」そう言い数分熱弁した。

だが、そんな情熱も最近では冷めてきたような気がする。

自分のやっている事に対して自分が納得していないからだ。

勿論仕事だ。やるべきことはやる。事件に巻き込まれてからでは遅い。

しかし、幼い彼らを親へ引き渡す時悲しい顔をする子がいる。

そいう子を見ると何だか心がモヤっとする。

彼らは何か理由があって深夜を徘徊しているのではないか?

自問自答の日々が続いた。

 「薬局に用があったんです」

ある少女に事情聴取をした時の言葉。

時間は深夜2時過ぎ。この時間までやっている薬局などここの地域には無い。

でも、似たような事を言う子も少なからず居た。

いや昔からかなりの子が居た。

その年で深夜の薬局に何の用があるのだ。

理由を聞いても理解しがたい回答が来る。

「夢が叶う」

「願い事が叶う」

そんな非現実的な事言う。

そう言う彼らを我々は呆れた顔で見るが、本人は至って真面目だ。

一応パトロールもしたが見つからない。

代わりにビルから出てくる少年少女が発見される。

そして彼らを署まで連行し事情聴取をするとお決まりの言葉が出てくる。

「薬局に用事があって」


 あれから途方もない時間が過ぎた。

結局僕は駅には向かわず近くにあった陸橋の下で縮こまっていた。

そして、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

時間が経っても特に何か起こる訳では無いのに。

段々と車の数や人数も少なくなり、体感的に夜中に差し掛かった事を実感する。

ふと、思い出すことがある。

薬局の事だ。

気にしないようにしていたがやっぱり気になった。

探すか?

迷いが生じる。

でも居心地が良かったのは事実。

警察にも突き出さず僕を見送ってくれた。

すぐに人を信用するのは良くないが、今はあの薬剤師に会いたい気分だ。

探そう。

僕は立ち上がり夜の街へと踏み出した。

 夜の風が涼しい。

歩いている人はほとんどいない。

正直昨日の薬局まではかなり遠い。

だが、ずっと陸橋に居るよりかは良いだろう。

もし警察に見つかっても今日は全力で逃げるつもりだ。

自分でもびっくりなのだが、気が付くとそれぐらい会いたがっていた。

何処にでもある住宅街を抜け段々と雑居ビルがちらほら見えるようになってきた。

とはいえ昨日の薬局付近ではないだろう。

駅の近くは多少なりとも栄えている。

都内であれば尚更だろう。

道の標識に駅の表示があった。

ほんの少しだが人数もさっきより多い。

ただ、終電を過ぎておりこの人達は何処に向かうのか自分には到底分からない。

ここで、予想外の事態が起きる。

警察が視界に入ったのだ。

栄えている所に居るとやはり彼らに会うのは付き物。

しかも、交番の前に立っている人に見られたかもしれない。

早く逃げなくては。

後ろを振り向き急いで走る。

この時間帯と人は少しいても多くは無い。全速力で走る人がいたらかなり目立つ。

走りながら後ろを確認する。

彼らも僕の事を確認したのか、自転車に乗りこみペダルを漕ごうとしている所だ。

僕と彼らとの距離はざっと数百m。

自転車ならすぐに追いつかれそうだ。

目の前に細い路地が見えた。

直線なら追いつかれるが、右往左往しながら動けば逃げ切れるだろう。

だが、自転車の鈴が遠くから微かに聞こえた。

彼らも道を曲がり鈴を鳴らして歩行者に存在をアピールしているのだろう。

このままだと捕まるのも時間の問題。

と、ここで目の前に見覚えのある店が出てきた。

どこにでも有る雑居ビル。そして1階に”それ”はあった。

自分でも目を疑った。

あの”薬局”にそっくりだ。

自分はこの土地に来るのは初めて。

確実に昨日の薬局では無い。

だが、今はそんな事考えている暇は無い。

とりあえず僕は店内に逃げ込んだ。

 店内に入ると目に前には満面の笑みをした薬剤師が立っていた。

「あら~^^」

相変わらず不気味な男だ。

今考えるとドラックストアならチェーン店形態で何処にでもあるだろう。

外居た時は焦って思考がまともじゃなかった。

「君昨日の子だよね?^^」

そう僕に訪ねてきた。

「た、多分そうだと思います。」

やっぱりこの薬局はチェーン店だろう。この人は僕の事を知っている。

「やっぱり~^^」

薬剤師は喜びながら店内奥の部屋に僕を案内してくれた。

因みにピンク髪の女の子はいなかった。

部屋に入る。中は昨日と全く同じ。

「ちょっと待ってね^^」

そう言いドアの向こうに行ってしまった。

一人取り残されたこの状況で、僕は少し考え事をしていた。

この後どうしようか。

実際に会えたがその先の事は考えていなかった。

ただ、やっぱりここに居ると不思議なことに安心する。

上手く言い表せないがなんだが心が落ち着くのだ。

ガチャ(ドアを開く音)

「お待たせ~^^」

そう言い僕の前にお茶と大福を置いた。

「今日はずんだ餅じゃなくて中に生クリームがたっぷり入ったお餅だよ!^^」

全身から力がスーッと抜けた。

この人はどれだけ大福のストックがあるのだろうか。

とりあえず食事を全くとっていなかった僕はお茶を飲み大福に噛り付いた。



















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深夜の薬局 たかのすけ @Takanosuke_Asakusa

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