第7話意味

歩く。

ひたすら歩く。

逃げるんだ、ここから。

おそらくあのまま車に戻っていたら、また殴られたに違いない。

そうなるんだったら、早く逃げてしまった方が楽だ。

だけど、少し心残りがある。

母さんだ。

 きっと、父は僕が逃げたと悟ったら家に帰り怒りの矛先を母に向けるだろう。

悔しいが僕にはどうすることもできない。

自分だって抗いたいのだ。

もし、仮に反抗したとしても結末が見える。

下手をすれば命の危険性だってある。

でも、このまま何もしなという訳にもいかない。

この逃亡が僕にって、最大の反抗という事だ。


 どれくらい逃げただろうか。

太陽は顔を出しすっかり夜が明けた。

そして僕は気が付いてたら走っていた。

今のところ父は追ってきていない。

おそらく家に帰っただろう、その先は想像したくないが。

 目的も無いままただひたすら歩く。

いや、一応逃げるという目的はあるが達成したようなものだろう。

少し休みたくなった。因みに昨日今日は寝ていない。

知らない所まで歩いたため土地勘が無い。ここは何処だ。

.....とりあえず駅に行くか。

最寄りの駅をなんとなく探す。自分の勘頼りで。最悪バス停でもいいんだ。

とりあえず、目的はできた。

 探している途中公園があった。

さっきまで僕が居た所とは違い少し小さい。どこにでもありそうな公園。

でも、今日はいつもに比べなんだかホッとする。なんでだろうか。

公園のベンチに座る。ゆっくり深呼吸をして呼吸を整える。

全身から力が抜けていくのを感じる。

はぁ、疲れた。

時間は9時頃。結構歩いた気がする。

この時間帯は自分を含め他の家族連れが1組居る。

彼らは幸せそうだ。子供は何才だろうか。小さい女の子だ。

あのような家族を見ているとなんだが気分が落ちてくる。

僕にも少なからずあった時期だ。

「パパー見て!」

「おー!よく見つけたね~!」

不愉快だ。

今の僕には辛いものだ。

ただ、目の前の子は幸せになってほしい。

 小さい女の子で思い出したが、薬局の女の子はどうなったんだろうか。

あの時はほとんど気にしていなかったが今はなんだか気になる。

何者なんだろうか。

おそらく僕と同じ境遇の人だと思うが堂々と薬局の中に居たのだから違う気がする。

そもそも物を運んでいた。それを踏まえると....やっぱり、一緒に働いているのか?

きっとなにか訳ありなのだろう。

それだったら、僕もそこに居候したいのだが。

 今思えば、部屋に案内されるときに見れば良かったと後悔している。

あの時は、焦っていた。

僕はすぐに緊張してしまう。悪い癖だ。

いつもとは違う非常事態が起きるとそうなる。

慣れればどうってことない。

今日の父からの言葉もいつもとは違う初めて聞いた発言だった。

これも、次第に何とも思わなくなってしまうんだろうか。

そう思うと、自分に苛立ちを覚えた。

徐々に公園が活気づいてきた。

子連れの家族が増え、自分の居場所が無くなっていくのを感じる。

まるで、僕を追い出そうとしているかのように。

 結局、僕は公園を出た。

あのままいても自分が苦しくなるだけだと思った。

そもそも、公園は僕みたいな人が居ていい所ではない気がする。

家族、学生達の遊び場。安らぎの場。そんな所に居ていい訳ないのだ。

誰も居ない所に行こう。そう思い公園を後にしたのだ。

歩く。

 時間の流れがゆっくりだ。

さっきとは違って、追われている訳ではない。厳密にいうとまだ可能性はあるが...。

やっぱり知らない所を歩くのも悪くないな。元は昨晩いつもとは違うルートで歩いた所から始まった。まさかこんな事になるとは思ってもいなかったが。

  多感的に1時間程歩いた。

そして途中河川敷が見え、現在は土手の芝生に座っている。

風が吹き心地よい。人は誰も居ない。

たまにおじさんが後ろを通過するがそこまで気にしていない。

河川敷なんていつぶりだろうか。

ここに居ると対岸の歩いている人も観察できる。

勿論、人通りは少ないが全く居ない訳ではない。

意外と楽しい。

率直な意見だ。

普段、あまり人をまじまじと見る事なんて無かった。

普通の人だって無いと思うが、楽しい事は意外とまだまだ有るという事に気が付いた。

いつもは頭の中で考え事をしたり、ボソボソと口にしたりしながら歩いているが、今度は人間観察もしてみようかと思う。

なんだか、眠くなってきた。

休憩はしたが寝てはいない。

ここで、寝るのも悪くないな。

そして僕はそっと瞼を閉じた。


 瞼を開けた時はもう辺りが真っ暗になっていた。

僕はかなりの時間寝ていたようだ。

寝顔を歩行人に晒していたと考えると少し恥ずかしい。

次はもっと人通りの少ない所で休もう。

それはそうとして、今は何時だろうか。

夜なのは間違いないが具体的な日時を知りたい。

近くの公園でも探すか。

午前中に居た公園でもいいが、1時間程歩いた気がする。

自分で言うのも変だが少し遠い。

もっと近くにある公園を探したいものだ。

 睡眠を取ったがなんだか体が怠い。

全回復したわけではないだろう。やはり少し疲れがたまっている気がする。

なるべく体力を温存していきたいが.....。

大きな国道に出た。

大きな道に出れば、勿論どこに何あるかが標識で分かる。しかしその反面警察がパトロールしている確率が高い。

小さい道でも巡回しているんだろうが、少しリスクが上がる。

ここで、捕まりでもしたら父親召喚だ。

それだけは避けたい。

ぐぅ(お腹の音)

お腹が鳴った。そういえば、薬局で餅を食べて以来何も口にしていない。

流石にお腹が減ってきた。

誰も助けてくれる人はいない。

ここで、誰か僕に手を差し伸べてくれる人が居ればと思うが、おそらく居ないだろう。

 なんだか、全てがめんどくさくなってきた。

仮に時間を見たとして何のためになる?

今自分は何のために歩いているのか。

それすらも分からなくなってきた。

次第に足が重くなってくる。

目的の意味を失ったとき、それはもう目的ではなくなる。

僕は、何のために生きているのかすら分からなくなってきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る