4枚目(裏) トウマ VS 女生徒
「ねぇ、君って
その明るめの声の主は女生徒だった。一目で生徒だと分かった訳はその服装である。その女性が着ている服はトウマと同じ学校のものであり、特に高等部が纏っているものと同一だった。大方空気の違うパレスを避けてショップに来たという所だろう。ただトウマは女生徒の台詞に含まれていた言葉が気になった。
「…はい?」
「あれ、前の所じゃあGCプレイヤーを契約者って言ってたんだけど、この辺りじゃ言わないのかな?」
「って事は…」
応えるように女生徒はカードを取り出した。あまり疑う要素は無かったがどうやら歴としたプレイヤーで間違いないようだ。
「あなたもパレスを避けてきたクチですか」
「パレスって確か学校の建物だよね…避けるって何が?」
「何って、大会の発表でギスってるから…」
軽く説明するがイマイチ噛み合わない。パレスの事も情報として知ってはいるが利用した事がないような口ぶりであり、話題の大会の事も「へぇー」と軽い反応を示すだけに留まっている。曖昧な点はあるがそうなるとショップへはただ純粋に来ただけとなる。トウマは思い込みかと考えるのを止めた。
「ねぇ、折角だから勝負しない?此処で会ったのも何かの縁だし」
「何でそうなるんすか…」
「色んな人を見てこいって言われたのよね」
「誰に?」
「……さて、付いてきて」
明らかに誤魔化してきた。そして女生徒は返答を待つ暇も無くショップとは違う方向へと歩いていった。勝手に歩いて行ったに近いのでそのまま放置するという選択肢が無いこともない。だけど後々を考えてトウマは応じることにした。
女生徒が向かった先は近くの公園だった。公園内に設置されている休憩場所に付いて待っていた。
「さて、始めますか」
そう言ってテーブルの上にカードを置きだす。するしかないかと流されるままにトウマも対戦の為にカードを置く。トウマがガーディアンとして置いたカードに女生徒が興味を示すが気にせずに準備を進める。
「"ガーディアンセレクト"」
「おっと、"セレクト"」
トウマ
G 〈
ライフ 10
手札 5
ロスト 0
取り除き 0
女生徒
G 〈エンゼル・アシスタント〉
ライフ 10
手札 5
ロスト 0
取り除き 0
「先攻後攻は好きな方で良いよ」
「じゃあ後攻で」
余程の自信があるのかコイン等は使わずに女生徒がそんな選択肢を投げかける。相手の考えがイマイチ分からないながらもトウマは後攻を選んだ。どちらでも良かったという考えもあるが、どうするのか観察するという意味合いの方が大きい。
「それじゃあ私から――――手札から〈ハロー・ピット〉を出します」
〈ハロー・ピット〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈天族〉
エナジー 2000 / 1
「〈ハロー・ピット〉の能力で山札の上から五枚を好きな順番で入れ替えます」
「山札を操作…」
「続いて〈配給天使〉を出して、能力で一枚引くわ」
〈配給天使〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈天族〉
エナジー 2000 / 1
初めに出してきたユニットもその次に出したものも天使を模したイラストが描かれた〈天族〉のユニットだった。ガーディアンも〈天族〉である事を考えればデッキの中心となっていると見るのが妥当だろうか。〈天族〉には補充を得意とするユニットが多く含まれており持久力があるとトウマも認識している。
「追加で〈見習い魔導士〉も出すわ」
「〈人族〉…?」
〈見習い魔導士〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈人族〉
エナジー 2000 / 1
女生徒が三枚目として出したユニットは先の〈天族〉とは違う〈人族〉のものだった。統一デッキと早々に思っていたトウマは少し疑惑を持ち始める。
そして呼び出された〈見習い魔導士〉は山札の一番上を確認してエフェクトなら手札に加えられる能力を持っている。本来ならギャンブルのような能力だが先に山札の並びを操作しているので確定で手札が増える。
「だから並び替えを…」
「組み合わせも大事だからね。さ、此れでターンは終了ね」
ターンが切り替わり、トウマが山札から一枚引く。
動くならばまずは下準備だろう。幸いにも手札を確認すると其れに適したカードが含まれている。
「〈魔竜の子 メア〉をコール」
「…へぇ…」
〈魔竜の子 メア〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈魔族〉/〈深淵〉
エナジー 2000 / 1
場に出たのは、新たに増えた数少ない〈深淵〉を持つカードの中の一枚。〈深淵〉を指定していなければ能力を活用出来ないが、〈ティアメア〉と相性の良いRankⅠで扱い易いカードである。
「能力によって山札の上から三枚をロストゾーンに置いて二枚引く」
「落としつつ手札を増やしてきたね」
「其れから〈遊撃のインキュバス〉を二枚コール」
〈遊撃のインキュバス〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈魔族〉/
エナジー 2000 / 1
「〈遊撃のインキュバス〉で〈見習い魔導士〉を攻撃、能力によって山札の上から二枚をロストゾーンに置く」
「エフェクトが含まれていたらエナジーが増えるんだったよね確か」
「今回は無いけどね。二枚目の〈遊撃のインキュバス〉で〈ハロー・ピット〉を攻撃。こっちも能力で山札二枚をロストゾーンへ」
二枚目の能力でもエフェクトは落ちないながらも順調にロストゾーンのカードが増える。この時点で七枚溜まっている。
「〈魔竜の子 メア〉で〈配給天使〉を攻撃」
「うわ」
「此れでターンは終了」
「其れじゃあまた私のターン」
女生徒が一枚引く。まだまだ序盤。
「エフェクトカード〈ワイド・ショット〉を二枚使って〈遊撃のインキュバス〉二枚を倒すね」
〈遊撃のインキュバス〉の能力は戦闘を行う時に使用出来るので攻撃をされた場合でも使えるが、エフェクトでエナジーを削りきられた際には使えない。的確な対処である。
「〈レフト・ジェミニナイト〉を出して能力を起動。手札一枚をコストにして山札から相方を呼び出すわね」
〈レフト・ジェミニナイト〉
ユニット / Rank Ⅱ
属性 〈人族〉
エナジー 4000 / 2
〈ライト・ジェミニナイト〉
ユニット / Rank Ⅱ
属性 〈人族〉
エナジー 5000 / 1
「また〈配給天使〉を出して一枚引く。それから〈エンゼル・アシスタント〉の
能力を活用して場の戦況を整えながらも手札が尽きないようにケアも行っている。
「〈配給天使〉で残ってる〈魔竜の子 メア〉を攻撃。そして〈レフト・ジェミニナイト〉で二点のダメージを与えるわね」
まだ〈ライト・ジェミニナイト〉の行動が残されているが女生徒は慎重にターンを終えた。五〇〇〇の壁として残すようだ。
「ドロー。まずはライフ一枚をコストに〈隻角の魔女 ティアメア〉のGSを起動。〈魔竜の子 メア〉を呼び戻して能力を再び使う」
「手札が全然減ってないなぁ」
「此れから使うよ。エフェクト〈ミスティック・ブレイム〉」
〈ミスティック・ブレイム〉は山札の上から二枚をロストゾーンに置き、置いた中のユニットのエナジーを参照してユニットを除去するエフェクトである。除去手段としてはエナジーを下げるのではなく直接ロストゾーンに置くとして強力ではあるが、安定性が低い上に自分を巻き込む危険があり、先程の女生徒のように山札を操作しなければギャンブルでしかない。
トウマは淡々と山札の上をロストする。置かれたカードの一枚目はエフェクトであったが、二枚目にはユニットが描かれていた。しかし―――
「〈呪いのスカル〉。エナジー一〇〇〇は居ないから失敗だね」
確かに除去出来る対象はいない。しかしロストゾーンが増えるだけでもトウマにはメリットとなる。
「ロストゾーンの〈穢れた亡者〉の能力を起動。ロストゾーンから他の三枚をリムーブして自身を場に出す」
〈穢れた亡者〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈魔族〉/
エナジー 1000 / 1
「更に二枚目の〈穢れた亡者〉も起動」
溜まったロストゾーンを活用して召喚権を使わずに展開。一体一体は其程強くはないが数はぞろぞろと増えていく。更に手札からRankⅡの〈ハングドマン〉をコール。
〈ハングドマン〉
ユニット / Rank Ⅱ
属性 〈魔族〉/
エナジー 4000 / 1
「ロスト四枚をリムーブして〈ハングドマン〉の能力を起動、手札一枚をロストゾーンに置いて貰います」
「あちゃー」
「其れからエフェクト〈ワイド・ショット〉。対象は〈レフト・ジェミニナイト〉」
「有ったの!?」
「有りましたよ。それじゃあ〈ハングドマン〉と〈穢れた亡者〉で〈ライト・ジェミニナイト〉を攻撃して撃破。残りの〈魔竜の子 メア〉と〈穢れた亡者〉で二点ダメージ」
質は其程良くはないが、圧倒的なアドバンテージを構築して攻めるトウマ。だけど油断は出来ない。一見慌ててはいるが女生徒の様子には何処か飄々としているような表情が含まれている。
そして女生徒の手札がまた一枚増える。
「じゃあ〈エンゼル・アシスタント〉のGSを使って一枚引いてから〈天翼使徒〉をコール。その能力で相手のユニットの数だけ引かせて貰うよ」
「!?」
〈天翼使徒〉
ユニット / Rank Ⅲ
属性 〈天族〉
エナジー 6000 / 2
女生徒が出した〈天翼使徒〉は RankⅢのユニットであり、場に出た時に相手ユニットの数が自分より多いなら相手のユニットの数だけ引くという状況次第で最大級の手札補給を行えるカード。其れによりターン開始時には一枚しか無かった手札はGSの分も合わせて六枚まで回復した。
「其れから〈救済の御手〉!〈天族〉ユニットがいるから手札一枚を山札の下に置いて、山札の上から三枚をみて、一枚を手札に加えて残りを好きな順番で山札の上に戻すね。そしてまた〈ワイド・ショット〉。対象は〈ハングドマン〉ね」
相手の手札を削るハンデスを警戒したのか〈ハングドマン〉が狙われロスト。其れから女生徒は場の二枚でプレイヤーを狙ってきた。他のユニットを狙わないのは後の復活と登場した時の能力を意識したのだろう。特に〈魔竜の子 メア〉を撃破すればまた蘇生とドローと墓地肥やしと大いに貢献するので間違いではない。
二点のダメージを与えられた所でターンが変わる。
「〈瘴気のブラック・ドラゴン〉をコール」
〈瘴気のブラック・ドラゴン〉
ユニット / Rank Ⅲ
属性 〈竜族〉/〈魔族〉
エナジー 6000 / 2
呼び出したのはあの〈瘴気のブラック・ドラゴン〉。攻めを意識して呼び出されたがこの場面では能力は使わない。使わない理由はコストという訳ではなく、味方を巻き込むその性能が問題であった。
「ライフ一枚をコストに〈隻角の魔女 ティアメア〉のGSを起動。〈呪いのスカル〉を呼び戻す。更に〈亡者の行進〉を使って、二枚の〈遊撃のインキュバス〉を呼び戻す」
「うわぁ、すんごい」
「戦闘だ。まずは〈瘴気のブラック・ドラゴン〉で〈天翼使徒〉を撃破。其れから〈呪いのスカル〉以外の五枚でプレイヤーに五点のダメージ」
質ではなく数で攻めるトウマの攻撃によって女生徒のライフは大量に減らされて残りは三点となる。ただトウマは〈隻角の魔女 ティアメア〉の能力を使う度にライフを削っている為、追い詰めたというより巻き返した状態と言える。
「此れでターンを終了します」
「それじゃあ、そろそろ決めないといけないかな」
そう言って女生徒は一枚引く。トウマのライフは女生徒と大差なく、先程の補充によって手札が大幅に回復した女生徒には削りきるのも不可能ではないラインにまで来ている。何なら先程から撃破されずに残っているユニットも合わせれば可能性は十分にある。
「〈レフト・ジェミニナイト〉をコール。そして手札一枚をコストにして相方を―――」
「其処だ、カウンターエフェクト〈フェイント・スライド〉を発動。起動能力を使ったユニットをレストする」
「え、って事は…」
〈ライト・ジェミニナイト〉は呼び出されるものの、与えるダメージ量の多い〈レフト・ジェミニナイト〉は行動を終えた状態となった。
「でもまだ呼び出せるよ。〈暴れん砲撃手〉をコールして能力を起動、スタンド状態の〈呪いのスカル〉をレスト状態に」
「二枚目の〈フェイント・スライド〉でそっちもレスト状態に」
「でも此れで守りはいないよね。ガーディアンコール!〈エンゼル・アシスタント〉」
〈エンゼル・アシスタント〉
ユニット / Rank Ⅰ
属性 〈天族〉
エナジー 1000 / 1
「此れで足りるよね――――総攻撃!」
攻撃可能なユニットは三枚、防衛に回れるスタンドユニットは居ない。全ての攻撃がプレイヤーへと届く。
「…負け、か。止めきれるかと思ったんだけどなぁ」
「カウンター飛んできた時はハラハラしたけどね」
「その割には読んでたみたいに―――」
「そっちこそ―――」
『はぁ…』
対戦を終えた二人は其れから少々雑談を始めたが、負けが続いた事が影響してか姿を現していた〈ティアメア〉は不機嫌が目に見えて分かる程に態度に出ていた。ただ其れでも少し思うところがあるかのような仕草も見せていたが、トウマはスルーしていた。
「さて、そろそろ時間も良い頃だから帰ろうかな」
カードを片付けると女生徒は立ち上がって身体を伸ばす。始めた時点で既に夕暮れであったが其れも進んで夜が少しばかり存在を示し始めている。トウマも帰らねばと立ち上がる。すると女生徒が何かを思い出したように一枚のカードを取り出す。
「そうだ、此れをあげよう。対戦してくれたお礼ってことで」
「急に何を…まあ、くれるのなら貰いますけども」
そう返して差し出してきたカードをトウマは受け取る。
「〈ガーディアン・オーダー〉…あんまり見ないカードだ…」
「結構使えるカードだよ。それじゃあ大会、本戦に出られるように頑張ってね~」
カードを渡すと余韻も特に無くそそくさと女生徒は公園から去って行く。その様子を見届けて一人残されるトウマ(+霊体1)。そしてぽつりと。
「…最後まで名乗らなかったなぁ」
凄く今更な事を呟くが其れを拾う者は居なかった。
貰ったカードを仕舞ってトウマも公園を後にしようとする。その間、〈ティアメア〉は何かが引っかかるのか女生徒が去っていった方向を見つめていた。
『あの娘…やはり』
◇
「まさか…いきなり見つかるなんてね」
公園から去った後、女生徒は一人夜に染まりつつある道を歩く。その足取りは軽く、何処か楽しげな様子にも見える。
「え、なんで対戦で手を抜いたかって?そりゃああんまり君を目立たせたくなかったからかな」
女生徒の近くに同伴する者の姿は居ない。だけど女生徒は誰かと会話しているように言葉を紡ぐ。彼女にだけ見える相手が居るかのように。
「報告しなくて良いのかって?まあもう少し様子見かな。探せとは言われたけど回収までは言われてないからね。其れに、まだ反発はありそうだけど今の方が平和的で私は好きだから」
続けられる言葉に対して反応はない。だけど女生徒は会話が成立したかのように歩き続ける。その背後に薄い靄のようなものを伴いながら。
ガーディアン・コントラクト 永遠の中級者 @R0425-B1201
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