校内大会編

4枚目(表) パレスの空気

 デッキを本格的に組み直してから日が経ち、トウマはまた学校へと通う。


 カードの種類が増えた事で戦略が増え組み直すだけでもかなり打ち込んだ。しかし、組み直してからまだ一度も対戦はしていない。対戦相手が居ない訳ではない。現にヒロは組み直した事を知っているだけあって状況を幾度も聞いている。その上でトウマは対戦していない。乗り気では無いというのも有るが、考えていたと言った方が近いかもしれない。


「…よし」


 授業を終えて放課後となり、トウマはパレスの前に来ていた。対戦の負けを機にデッキを本格的に組み直し、その切っ掛けとなった相手を探しに来たのだ。リベンジである。

 相手は高校生でありその上此処は中高一貫であるので高等部に行けば会えないことも無いが所属を知らない。だけど此処ならある程度人数は限られるので見付け易くはある。


「出来れば居てくれると助かるけど…」

『なんだ、思ったより弱気なのか』

「そういう意味じゃない」


 〈ティアメア〉の茶々を返しながらトウマはパレスへと入る。

 前回の対戦でレアカードを使った事で噂になっているとヒロが言っていた。それ故にその噂が残っている間にパレスに行けば、質問攻めなど手厚い絡みを受けるのは容易に想定できた。其れは避けたいと思っているから前回から数日置いての再来である。


「ふむ…まあまあ人は居るな」


 放課後になって少なくとも十分は経っているので人の入りも其れなりになっている。目的の相手が居るかは謎だが中学生、高校生の両方が確認出来る。あと、今のところは質問攻め等の様子はない。ただ気付かれていないだけの可能性はあるがトウマとしては気楽に探せる。


「さて、何処から探そうか」

『…随分な人集りだな』

「え?」


 〈ティアメア〉の声に釣られて周囲を見る。確かに人集りは存在した。人数としてはそんなに気になる程では無いが、その集まりがゲームが行われるテーブルではなく柱等の何も無い所の前に出来ていた。


「何だアレ?」

『行けば分かるであろう』

「ああいう人混みは避ける気で来たんだけど」


 行くのが手っ取り早いのは確か。だけど自分から面倒事に飛び込むような気はない。気になりはするが「今すぐでなくても良いか」と人混みを避けるように階を上がる。


 柱の前等に人が集まっていると言っても全員がそうと言う訳ではなく二階では幾つかのテーブルで普段のようにゲームが行われている。GCをプレイしている者も居るが探している高校生の姿は見えない。


「此奴らをコールだ!」

「コストを払って―――」


 プレイしている卓はあるが以前よりも少なく思える。中央の立体設備も今は起動されていない。設備の不調という訳では無さそうだが、どうもプレイしていないプレイヤーが多い。卓に着かずカードの話をしている姿も目撃される。


「お、居た居た」


 トウマが観察しながら対戦の少なさに疑問を持っていると後ろから声が掛けられた。ヒロである。後から来ると聞いていたので然程驚く事は無いのだが、そのヒロの様子は急いで来たというだけでなく謎の要因も混じっていた。


「おい、下の知らせは見たか?!」

「知らせ?もしかしてあの集まりか?」

「ああ、見てないなら見た方が良いぜ!」


 何やら興奮しているヒロに連れられてトウマは先程避けた人集りの場所へと向かう。先程よりも人が減っている柱の前へと向かうと柱には張り紙が付けられていた。どうやらこの張り紙が人集りの原因だったようだ。

 して、人集りが出来る程の張り紙に書かれている事はと言うと―――


「校内…大会?」

「やべえだろ!公認だぞ!」


 張り紙には近々パレスで行われるというGCによる大会の事が記されていた。ヒロ曰く個人が非公式として大会を開く事は少なからず有ったが、公式、それどころか教育機関の学校が自ら動いて大会を開くという事は無かったらしい。大会の興奮は分からずとも学校自ら進めているという異例さは理解出来るだろう。トウマ自身、「校長の趣味が此処まで」と驚きを隠せないでいた。


「しかも賞品もあるってよ!此れはやらない手はないな!」

「で、肝心の日時は?」

「其れは書いてないな…」


 張り紙に書かれている事はあくまでお知らせであり、詳細は後日発表とも書かれている。だからか日時や賞品に関しても曖昧な事しか記されていなかった。とはいえ其れでもプレイヤーを決起つけるに十分なのは周りを見れば納得であろう。


「だからか。デッキを見ながら悩んでる奴が多いのは」

「だろうな。正直俺も大会に向けて改良したいし」


 先程から見かける対戦をしていないGCプレイヤーは自身のデッキを見ていた者が多い。其れは大会の開催情報を受けて自身のデッキの改良点を考えているとみて間違いないだろう。デッキを見ていない者も他のプレイヤーの対戦を見る事でそのデッキを研究しているようである。…とはいえ複数持ちなら兎も角、デッキを一つしか所持していない者は手の内を晒す事になるので衆目を集めながらの対戦は控えるだろうが。大会参加を考えているのなら。


「其れなら今日は探しても居ないのか?」

「誰のことか知らねえけど周りがこの様子ならそうなんじゃないか?」

「そうか…」

『ちっ…』


 どうやらリベンジは先送りのようである。静かに燃えていたのか〈ティアメア〉からは不服そうな音が漏れていた。


「んじゃ俺らも引き上げるか。帰りにショップ行こうぜ」

「今日はあんまり金持ってないが」

「其れなら俺だけ仕入れるだけだ」


 そう言ってヒロはパレスから出て行く。賞品に反応していた辺り大会での勝利を目指すのだろう。大会の仕組みはまだ公開されていないが改良して損はない。

 以前の購入分でまだ改良のしようがあるとはいえ、一人で行かせるのは勿体ないと結局トウマも一緒に向かうことにした。


「やっぱり来るんじゃねえか」

「今のパレスは対戦もし辛い空気だからなぁ」


 ショップに行けばカードを購入するだけでなく、運が良ければ他の客と対戦をする事も出来る。探り合いのパレスに居るよりはショップの方が気は楽であろう。もしかすると良い経験を得られるかもしれない。


 そうして二人は学校から出てショップへと移動した。パレスに比べれば静かだが人が居ない訳ではない。フリースペースでは今も対戦をしている客がいたりと先程のパレスとは違うゆったりとした空気が流れている。


「さて、今日はどれにすっかな」


 並べて売られているカードパックを前にヒロが嬉々と眺めている。ヒロ程からすれば今売られているパックの内容は把握しているものだが、何が当たるか分からないというドキドキ感を楽しんでいたりする。


「そういえばさ」


 そんな様子に対して端で見ていたトウマが声を掛ける。ヒロは視線を変えないが声で応じる。


「カードパックの販売周期ってどのくらいなんだ?」

「急にどうした?」

「いやぁ…ヒロならどれ選んでも持ってるんじゃないかと」


 ヒロは「分かってないなぁ」と返す。実際種類としては多く持っているがそれらが複数枚持っているかと言えば違うので買う意味は有ったりする。流石のヒロも全てを網羅していない。

 と、話を戻してヒロは最初の質問を返す。


「パックの時期か…他のカードゲームとかだと4ヶ月前後ぐらいで次が出てたりするけどGCはその辺り安定してないからなぁ」

「そうなのか?」

「ああ。基本的には遅いけど、其れが半年以上だったり、出たら出たで一度に複数だったりなんだよ」

「其れは随分と…」


 曖昧な、と思った。

 そもそもGC自体が他のカードゲームとは違っている。明確な出所がはっきりしておらず、唯一製作協力として名を出している場所が研究所である等、出所関係には謎が多い。そんな事情が多いからこそ他とは販売周期が異なっているというのがプレイヤー間での認識である。


「でも考えてみれば前回から結構経ってるんだよな…。大会があるけど次のパックの為に置いておくか?」


 結局まだ存在も明かされていない次のパックを意識してパックの購入を諦めるヒロ。積める枚数が限られて安定性は落ちるが所持カードだけでも改良は出来るからか購入に未練は特に無かった。


「それじゃあ帰るか」

「言っておいて何だけど、本当に何しに来たのか」


 ヒロが先に店を出る。トウマが少し遅れて店を出ると既にヒロの姿は無かった。待つ気はないようだった。どうせ後で別れるのだから良いか、と一人で帰路に付く。すると――



「ねぇ、君って契約者リンカーでしょ?」



 その声に足を止めて、声のした方向へと意識を向けると其処には見知らぬ女生徒の姿があった。




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