ドルトンの情報と王宮③

フォルトナがユダを睨む。


「ユダ。改心したふりをして、よくも俺を裏切ったな。これは、お前を部下に持つ俺の責任にされかねない。」


「すみません。ですが、私の心残りは、これでなくなりました。殺して下さい。死んで謝罪をします。」 

 

フォルトナが不敵に笑う。その表情は邪悪な怨念を晴らす事が出来る喜びのようにも感じられる。

 

「死ねるわけがないだろう。メイブ言ってやれ。」


「あなたは顔の無い盗賊団の頭として、これから拷問を受けるのよ。今回の愚行も含めて調査をされるでしょうね。」


「何を? 私は頭ではありません。」


フォルトナがまた鋭い眼光でユダを睨む。

 

「俺に嘘は通用しない。」


「……。」


 フォルトナは黙り込むユダから、拘束しているクレオンに視線を移す。


「おい兵士。そいつを連行しろ。顔の無い盗賊団だ。」

 

ゼイタークが、フォルトナを軽蔑し呟いた。

 

「つくづく無礼者だな。フリストフ卿は、これでも大将軍なのだぞ。」

 

クレオン フリストフは、真剣な表情でフォルトナを見る。

 

「馬鹿なのか若造。こいつはお前の部下で、顔の無い盗賊団の頭なんだよな? 上司であるお前をここで見逃すと思うか? ひょっとしてお前がエグリゴリなのか?」 

 

騒ぎに遅れて来た兵士達が、クレオンが取り押さえていたユダを拘束する。フォルトナはそれを見届けてから笑みを浮かべる。

 

「否定はしない。別にどう思ってくれても構わんぞ。」


「お前等、こいつと仲間達、全員を拘束しろ。」


「それは断る。俺は抵抗するので、拘束したいのなら戦って勝つしか方法はないぞ。」 

 

フォルトナとその仲間達が武器を構えて戦闘態勢を取っている。

 

「やはり、エグリゴリなのか。まあ良い。そいつは連行しておけ。残りの者は俺について来い。庭園でなら戦える。」

 


 

 一同は戦いを始める為に庭園にまで移動していた。


 しかし、クレオンの心は、道中で変化する。

 

「……違うな。……やめるか? お前は、顔の無い盗賊団とは無関係だろう?」 


「無関係ではない。」

 

「でも、エグリゴリではないだろう? おかしいんだよな。どう見ても関係者だったが、今は、まったく怪しくない。」


「面倒だな。それは俺の能力の一部だ。俺に敵意を向けると時間経過で、疑いなどは勝手に消えていく。度合いにもよるがな。」


 フォルトナの言葉にクレオンが眉を顰める。そんな能力は聞いた事がない。

 

「そうなのか? だとしたら危険だな。それは得体の知れない力だ。……いや、そうでもないか。」


 躊躇しているクレオンを前にフォルトナは剣を構える。

 

「今、まさに俺の異能に惑わされているぞ。この戦いはもう止められない。油断するな。全力でいく。」 


 フォルトナは全力でクレオンの方に駆け出していく。しかし、すぐに動きが止まった。


 止まらざるを得なかった。クレオンはそれに驚いている。

  

「うわっ。初見でこれに気付くのかよ。」 


「まずいな。勝ち筋が見えないのは初めてかもしれない。」


 クレオンの軽量型の鎧には、複数の刃が仕込まれている。どの角度から近づこうとしても、クレオンの異能【斬撃波】の餌食となる。クレオンはその発動に備えたのだ。それが魔法であればフォルトナには無効だが、【斬撃波】はスキル。


 加えて、今の二人には絶望的なまでのレベル差がある。フォルトナが攻撃を喰らえば、一撃で持っていかれる可能性が高い。辛うじて耐えられたとしても、ノックバックの効果で大きく後退させられる。何度挑んでもその繰り返しでクレオンには近づく事さえ出来ないのだ。



「まるで本物の近接殺しだな。」


「よく分かったな。昔からそう呼ばれているんだ。一人を除いてな。」


「そいつの目は節穴だな。」


「若造。どうやら死にたいようだな。俺達にそれは禁句だぞ。」


 すると、クレオンの体が魔族のような異形に変化する。


「面白え。その強さで更にとっておきがあるとはな。異能だけでなく、全てのステータスがあり得ないくらいに上昇している。凄えよ。お前は21年でそこまでたどり着いていたんだな。」 


 フォルトナが剣に力を込めると、クレオンが元の姿に戻る。


「今。なんて言った? 21年前に俺達から離れていった存在は一人しかいない。まさかお前なのか?」


「あっ。クレオン黙れ。何も言うな。俺は俺だ。フォルトナ セルティーだ。」


 その対応でクレオンは気が付いた。偽ってはいるが、間違いなく目の前にいるのは、親友のロイス ティオールであると。クレオンから涙が止まらない。クレオンはロイスと戦い敗れて以来、ずっとロイスを尊敬していた。学生時代は親友となり、ロイスが離れてからはより一層、心にその至高の存在を抱いていた。クレオンがここまで強くなれたのも、死んだとされるロイスの力になりたい一心だった。

 

「何をやってたんだよ。本当に……本当に会いたかったよー。」


 クレオンはフォルトナにしがみついて泣いていた。


「後で全部話すから、落ち着け。くそっ、これじゃあ。戦えないじゃないか。それにしても、クレオンは努力したんだな。まさか本物の近接殺しになるとは思わなかったぞ。」


「うわーん。……お前からそんな言葉が聞ける日が来るとは……。努力して本当に良かった。」


「さっきも言ったように、俺の事はフォルトナと呼んでくれ。」

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世界最強の大将軍は引きこもりでコミュ障の王子に転生して、嘘を見抜く。『カトブレパスの邪眼』私怨で復讐するダークファンタジー。 燦田黒主 @shikkokunohono

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