第6話 百合豚は読書に没頭したい
どうもみなさんお久しぶりです。魔王軍第7軍 第7オーク小隊所属 隊長のロスです。
特にこれといった特技もなく、真面目だけが取り柄の私ですが、何とか今も生き残っています。
相変わらず血気盛んな部下たちに振り回される毎日ですが、最近は打ち解けてきたようで、以前よりも親しみを持って接してくれているように感じます。(財布から目を背けつつ)
そんな私は今、戦場ではなく、魔王軍第7軍の本部にある兵舎にいます。
以前は激化する戦況によって、休む暇もなくあっちこっちの戦場を駆け回っていたのですが、最近はすっかりと落ち着き、待機命令が下ることが多くなりました。
実は現在、人間たちとは停戦中なんですよね。戦争自体がお休みなのです。
一兵士の私では上でどのような取り決めがあったのかは測りかねますが、伝わってくる噂で何となくは何が起こっているのかは分かります。
曰く、魔王様が代替わりしたことで軍の方針が変わった。
曰く、最近誕生した人間の勇者により、無視できないほどの戦況の変化があった。
曰く、魔王国内部で内乱の兆しがある。
などなどの噂から、国内の情勢を落ち着かせるための準備期間を作ったのではないか、というのが有力説です。
まあ、下っ端に過ぎない私にとってはどうでもよいことです。今はせっかくできた休暇を楽しむことが何よりも大事なのです。
そんな私が今、何をしているかというと――
『メルル!早く逃げなさい!こんなモンスター、私が蹴散らして――』
『ミーアさんダメです!後ろからもゴブリンたちが追ってきています!このままでは――』
『くっ…』
迫りくるモンスターの魔の手。ダンジョンに挑んだ魔法使いの見習い2人の命は風前の灯火に思えたが――しかし、そんな2人の元へ、1人の少女が舞い降りる!
『――間に合った!待たせたね2人とも!』
『マカ!?あんたなんでここに!?』
『マカさん…!?杖が壊れていたんじゃ…』
『大丈夫、先生のを借りてきた!』
2人を守る騎士のように、モンスターたちの前に立ちはだかるマカ。3人が揃った今、恐れるものは何もない!
『2人は…私が守る!』
「ああ~いいですね~」
――自室で小説を読みふけっていました。
人間の文字で書かれたそれは、今人間領で人気の高い娯楽小説、「見習い魔法使いマカ」です。
魔法使いを目指す少女マカが、魔法学校で個性豊かな仲間たちと一緒にハチャメチャな冒険を繰り広げるという内容で、老若男女問わず幅広い層にヒットしている作品です。
もちろん普通に読んでも面白い作品ですが、私のような百合愛好家の視点から見ても素晴らしい作品なのです。
「やっぱりマカがいないとなぁ…。ミーマカ…、いやメルマカか…?」
そう、百合カップリング。劇中では主人公とヒロインたちの絡みがやけに多く、百合という観点から見ても楽しめる作品となっているのです。
なかでも主人公と絡みが多いのが、ツンデレライバル少女ミーアとおっとりお姉さん系少女メルルの同級生2人です。
この3人で授業や試験を受けることが多いので自然と絡みが多くなるということもあり、私の中ではその2人とのカップリングが主流となっています。
まあ、絡みが少ないキャラとのカップリングを妄想するのも嫌いではありませんが…今それは置いといて。
「マカをパーティから外してたのはやっぱりヒーロー演出のためかー。王道かつ鉄板だよな。しかし、この窮地をマカだけでどうにかなるか…?もしかしたら新魔法のお披露目みたいな見せ場があるのか…?」
こんなふうに識字能力が無かった私が人間の書物を楽しめるのも、軍学校で敵性国家の言語を教えてくれたおかげです。いやあ、文字を教えてくれた鬼軍曹には足を向けて眠れませんね。
そうして一人静かに休暇を楽しんでいると、なにやら窓の外から喧噪が聞こえてきました。
「…?喧嘩か…?」
顔をしかめながら栞を挟んで本を閉じ、窓の外を見ると兵舎の前にオークの人だかりができていました。
よく目を凝らすと、その中心でオーク2人が取っ組み合いをしている様子。周りのオークたちは止めることもなく、野次馬宜しく囃し立てています。
「はあー…。休日だってのに…」
できれば関わりたくはないのですが、このまま放置したとあっては監督不行き届きで大目玉を食らいそうです。
面白くなってきた小説に後ろ髪を引かれながらも、嫌々仲裁に向かうのでした。
百合豚オークはブヒりたい 柿炭酸 @kakisoda
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