バイブスと 回転数を あげていけ
長月瓦礫
バイブスと 回転数を あげていけ
台がぐるぐると銀の玉を弾いて大きな音を鳴らす。
神に近づきたいがために回す。
とかく回転数を上げる。
私たちは救いを求めて台の前に座り、とかく回しまくる。
台から吐き出される銀の玉を交換し、貢いだ分だけ神々の楽園に近づけるのだ。
毎秒毎秒、回転数とバイブスを上げる。
摩天楼のジャングルや虚ろな往来から抜け出すために、私たちは台の前に座って銀の玉を弾き大当たりを狙う。
私も毎日通い詰め、ついに777回目に達した。
回転数もバイブスも運気も爆上がり、世界はひっくり返った。
「なんだ? アンタもついにこの領域に達したのか」
煙草をくわえたガラの悪い女は銀の玉の頂点に君臨する神である。
私は手に入れた玉を魔法の紙を差し出した。
「ええと、回転数にも限界があるって聞いたんですけど」
台によって加減が多少変わるらしいが、限界は決まっている。無限に弾き出された銀の玉は女神への貢ぎ物に変わる。
「まさか、女性だとは思っていなかったので……どうすればいいんですかね?
噂で男の人だって聞いてたのでちょっとだけ不安だったんですよ。
これまでの神様と同じだったらどうしようって」
「何を言っているんだかな。まあ、貢ぎ物なら受け取っておこう」
女神は紙を受け取ると、カウンターから封筒を取り出した。
この中にありったけの救いが入っている。
「ほら、これが欲しかったんだろう? いくらでもくれてやるさ」
女神は封筒を破き、ばら撒いた。
白い紙が吹雪の方の舞う。
「たかが金属製の玉ごときで救われると本気で思っていたのか? 実に愚かで馬鹿馬鹿しい遊戯だ……が、悪くないな」
私は無我夢中で紙片を集める。
女神の言葉なんて耳に入っていない。
「欲望を信仰に変えるには、これが一番簡単だった。ありもしない幻想を確立で手に入ると言い張れば、誰だって賭けたくなるだろう」
地面を這いつくばっている私の姿に女神はあきれた様にため息をついた。
バイブスと 回転数を あげていけ 長月瓦礫 @debrisbottle00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます