秒で落ちた俺の話。

夕日ゆうや

友人と恋人の時間は短かった。

 指輪を渡した彼女は桜色の唇を寄せてくる。

 いや待て。

 そう言おうとした唇を塞ぐ。

 俺はこの子に最速で落とされた。恋に落とされたのだ。

 その手口、鮮やか。

 いや思春期の男子高校生を落とすのは楽だったのかもしれない。


 ◇◆◇


小次郎こじろうくん。今日一緒に帰ろ?」

「え。いや、今日は及川おいかわと帰るつもりだから」

 ニタッと笑う及川。

「いいんよ。おれよりも武蔵むさしさんとお帰り」

 そう言って一足先に帰る及川。

「お、おい!」

 そうして俺と武蔵は一緒に帰ることになった。

 帰り道。

「ちょっとファミレスに寄ってもいい?」

「え。俺、金ないよ?」

「わたしのおごりだから安心して」

 そう言うと俺は武蔵の後を追う。

 ファミレスに入り、俺はドリンクを武蔵はドリンクとパフェを頼む。

「ほら。あーん」

 そう言って武蔵はパフェに乗ったアイスクリームをスプーンで掬い、こちらに向ける。

「え。いやでも……」

「はい、あーん」

 俺は抵抗するのを諦めて口にする。

「こんなことしたら普通勘違いされるぞ?」

「えー。どういう風に?」

 武蔵は変わらぬ顔でパフェを食べる。

「こ、恋人だと」

「じゃあ、勘違いさせたままでいいんじゃない」

「どういう意味だ?」

 俺が訊ねると武蔵はクスクスと笑う。

「警戒心が強いんだね」


 ◇◆◇


 翌日、俺が通学路を歩いていると、後ろから背中を叩かれる。

「おはよ。小次郎くん」

「おはよう武蔵。朝早いんだな」

「えへへへ」

 嬉しそうに頬を掻く武蔵。

「小次郎くんと一緒に登校したかったの」

「そ、そうなんだ。でも勘違いさせるぞ?」

「勘違いしてもいいのよ?」

 にんまりと笑みを浮かべる武蔵。


 そんなやりとりを何度か終えて俺は武蔵に告白された。

 それもここ一週間の話だったりする。

 俺は簡単に落とされたのだった。

 まあ、それも悪くなかったのかもしれない。

 俺はこれから武蔵とのイチャイチャな生活を迎える。そう思うとワクワクする。

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秒で落ちた俺の話。 夕日ゆうや @PT03wing

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