第2話

 「これは旧文明時代、つまり、ヒトの星にまだ自我を持った生命が多く存在していたときの、都市と呼ばれる構造物群だ。これはかなり発展していた場所に存在する都市で、構造物の素材はかなり頑丈に作られている。だからヒトが絶滅してからかなり時間がたった今でも、原型をとどめられているんだ。」


 ところどころ規則性を持って並べられた直方体の構造物と、それらの隙間に詰め込んだように重なり合う複数の曲線は、乱雑に作られた基盤の様だ。


 「でも、今僕たちがいるところは、ヒトが定住していたところとは少し離れているから、旧文明の遺物をみつけるのは難しそうだね。」


 着陸時の逆噴射によって草が反り返った部分以外は、まるで文明を感じさせないありのままの緑が広がっている。


 「今回の目的は、新植物の分析が目的だから、こっちの方が都合がいいんだけどね」

 

 新植物に興味がないわけではないが、旧文明に浪漫を感じる私は、旧文明の欠片を見つけようと、足元の小石ばかりに注意が向いていた。


 旧文明の道具、文化、技術。それらは私たちミトヨの文明とは似て非なる進化を遂げていたといわれている。一つの大きな違いは”電気”という概念だ。ヒトの星では、あらゆる物が電気エネルギーを利用していたという。私たちミトヨの星では、それに近いものとして生命エネルギーがある。ただ、これらが本質的に違わないという学説も一部存在している。


 また、文明の終末については様々な仮説が唱えられている。ヒトが星を離れたことによる、ヒトの星の弱体化を終末のきっかけとする説が最有力ではあるものの、星が弱体化する前に環境悪化によってヒトは絶滅していたという説や、ほとんどのヒトが電脳化されたのち、想定をはるかに上回る強度をもつ太陽フレアの影響を受け、全滅したという説もある。


 「下ばっかり見てないで、まずは採集から始めるよ。」


 私の良くない癖だ。一度別のことを考え始めると、まったく外側に注意が利かなくなる。先生は体の一部を開き、手の役割を持つ3股に分かれたパーツを植物の先端に伸ばし、葉が千切れることのないよう器用に茎を切断した。まだ薄く頼りない若葉からは、まるで光をそのままに込めたかような暖かさが感じられた。先生はその若葉を太陽に透かして葉脈を少し観察したあと、生命エネルギーが漏れて枯れてしまわないよう、高濃度の生命エネルギーを溶かし込んだ液体のはいった、採集専用ボトルに入れて保管した。


 私もそれに続き、同じ植物の実を採取した。真っ赤に熟れた直径2cmほどの実が3つ連なっており、それを同じく茎ごと切り取り、別のボトルに入れた。


 

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ヒトの星 @miz-

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