第28話 エピローグ

 あっという間に、クリスマスが終わり,年が明け、そして、1月の終わりになっていた。


 泉美は学校で問題なく過ごしているようだ。


 里奈が猫嫌いの川端に言った「ブチが2度と泉美に近付くなと言っている」という脅しが効いたのかどうかは分からないが、川端はあれから泉美に近寄ってこようとはしないらしい。


 しばらく1人でお昼を食べていた泉美だったが、すぐに別のグループが声をかけてくれて,クラスメイトとの関係も悪くはないと聞き、康平たちは安心した。


 泉美が、クラスメイトから聞いた話だと、川端は去年の夏頃から随分と酷い噂を流していたようだ。


「泉美ちゃんは、おじさんに入学試験の問題を教えて貰ってここに入った。今も試験の問題は全部教えて貰っているらしい」

「じつは、男ぐせがわるくて、たくさんの男友達がいるらしい」

「クラブとかにも行ってて、私も誘われるんだけど、怖い人たちもいるから、嫌なの」

 などと、ありもしない嘘をつきまくっていたようだ。


 これを聞いた、里奈は「やっぱり一発ぐらい殴っておくべきじゃない?」と、怒っていたが、結果的に誰もその噂は信じてなくて、今では、泉美のありもしない悪口を吹き込んでいた川端の方が孤立してしまっている様なので、まあいいかで、落ち着いた。


 川端の方は、自業自得と言えるが、泉美は自分が知らない間に傷つけた事がきっかけだったんだと、気にしていた。


 泉美が気にしていると知って、康平は泉美を励ます。

「誰だって言葉で失敗する事は沢山あるよ。大抵の人は、少しぐらい気になっても、悪意はないだろうと聞き流すぐらいの力があるけど、自分の言った言葉をどう受け取るかは相手が決める事だから…。泉美ちゃんは”ここであなたに逢えてよかった”と伝えたかっただけなのに、それを相手は全然違う取り方をした。今回の経験は泉美ちゃんにとって、いい経験だったんだよ。伝えたい事がちゃんと伝わらない事もあるってことを泉美ちゃんは今回の事で分かって、成長したんだから、今後は失敗が減るだろう?今はそれで良いんだよ,きっと」


 康平はあの後、泉美と色んな話をした。

 康平自身の失敗談も沢山話して、笑い合ったりもした。

 泉美は、今回、壁をひとつ乗り越えたと思うわ、何てことを言い、一歩大人になれたと笑った。



              ◇



「康平くん、秀樹くん、チョコ好き?」

 藤棚の下で、ブチを抱きしめて暖を取りながら泉美が聞いた。

「大好きだよ」と、秀樹が即答する。

「まあ、嫌いではないけど…」

 康平の方は曖昧に答えた。


 この時期に聞かれると言う事は、アレだ。好きだと答えると、要求してるみたいで嫌だなと、康平は気を回したのだ。


「どっちよ?」里奈がイラッとした様に聞く。

「チョコ嫌いなら,別のモノにするから」

「あ、いや、チョコ好きです」

 里奈に言われて慌てて康平が答えた。


 それを聞いて、泉美が微笑む

「今年は、手作りするわ」

「えっ?マジで?」

 そう言ったのは里奈だった。

「里奈はいいのよ、私は、手作りするけど」

 里奈が呆れた様に泉美を見る。

「康平さんに、本命レベルのチョコあげてどうするの?おじさんだよ?」


 里奈が本人を目の前にして言う。康平は苦笑いした。


「おじさんでもないわよ?九つしか離れてないわ」

 泉美が言った。

「ほぼ、10歳違いじゃん、十分おじさんよ」

 里奈の言葉が、康平に容赦なくささる。


「そんなの、社会人になれば、気にならないわ、今年中に私たちも18歳になるんだから、そうすれば、結婚も自分の意思で出来るのよ?」


 えっ?


 康平と里奈は、泉美の言葉に困惑した顔になる。

 秀樹は康平と泉美、2人の顔を交互に観察するように見た。


 ばっと、泉美が横を向いた。

「ねえ、見て、あの男の人、ウロウロしてるけど、もしかして、ブチに会いに来たんじゃない?」

 泉美がそう言ったが早いか、ブチがぴょんと、泉美から飛び降りた。

 その間に、秀樹は泉美の顔が赤くなっていた事を見逃さず、微笑む。


 泉美から飛び降りたブチは、ウロウロしている男に寄っていった。


 おっ?と、4人はその様子を見つめる。

 ブチが男に寄り、足もとに体を寄せ、みゆーと鳴いた。


 3人は顔を見合わせると、泉美と秀樹は駆け出し、その後を里奈と康平が速足で追ってついて行く。


「お兄さん、お兄さん!」

 泉美が声をかけると、男はビクンとして声の方向を見る。

 4人が勢いよく自分に向かって来るのを見て、男は思わず後退った。


「お兄さん!悩み事あるんでしょう?話し聞きますよ!」


 幸運を呼ぶ猫、ブチの活躍は

 これからもまだまだ続きそうだ――


 END











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