3話 仲間?


 さてと、取り合えず手当たり次第に探すか。


 たった今姫乃から送られてきた散歩ルートや特徴、よく遊んでたところなどを頼りに足を運ぶしかない。


 といっても、1人だと絶対に見つかる気がしないので、アイツを呼ぶことにする。


 メール画面から飛んで、通話ボタンをタップ。


 で何度も繰り返される呼び出しの音。


 するとすぐに、電子音が止んで通話が開始される。


「もしもし、今日も依頼が入った。今どこだ?」

「こーせーの横」


 から聞こえた声に違和感を抱き、俺は声の方を見た。


「おわぁ!?キモっ!?なんでもういるんだよ!?」

「ははは、驚いた〜?いやー教室掃除してたら、こーせーと姫乃が中庭でイチャついてて。盗み聞きしたくなっちゃってさ〜」

「マジでキモいな、その理由」

「酷いなー。俺は楽しいことをしたかっただけなのに」


 腕を組んで、高々に笑うのは、おバカで有名な五味さんです。


 高身長マッシュといういかにもモテそうな感じがあるが、実際のところはただのバカで、みんなから舐められがち。


今日俊盛しゅんせいはどうしんだ?アイツの力も借りたいんだが」

「あー、しゅんせーなら帰ったよ。なんか親と話があるらしくて」

「そっか。医者の息子っていうのも大変だな。じゃあ、今日は2人で」

「オイ、オレは帰ってなどないぞ!適当な嘘つくな」

「どわぁ!」


 後ろ!?いつの間に?


「もっと優しく登場してくれよ……というか、五味の嘘だったのかよ」

「ああ、その通りだ。オレが親と話すことなんて何もない」


 特に表情も変えることなく、淡々とした様子でメガネを指で上に動かす。


 俺に親がいないように、俊盛にもなんか色々と家庭的な事情がありそうだな。


 あんまり深掘りするのも良くないし、無難なこと言って依頼説明に入るとしよう。


「まぁ、自由が一番か。俺も家で1人だからそこら辺の気持ちは少しだけわかる」

「その通りだ。期待されない人生は楽でいい」


 言い終えると俊盛は軽く吹き出して、前髪をかき上げた。


 なんだろう、こう、普段から冷静な俊盛だからこそ出る色気?みたいな。そんなのがあった。


「お前らと一緒にいる時にこんな話するのは勿体無いな。幸生、任務が入っているのだろう?」

「おう、今日もしっかりと働いてくれや」

「タダ働き上等!最高に楽しくしよーぜ!」

「そうだな。全力を尽くすとしよう」


 俺は持っている情報を共有し、とりあえず今日は散歩ルートを潰すことにした。


 散歩ルートを三分割し、それぞれの持ち場として時間までその周辺を探す。


「こんな感じで行こうと思う。時間になったら勝手に上がってくれて構わないからな」

「了解だ」


 俊盛がコクリと頷いた。


「よし、それじゃあ解散」

「ちょっと待ったぁ!」


 すでに行動を起こそうとした俺と俊盛は、怪訝そうな目を五味へと向ける。


「む?どうしたんだ、ゴミ」

「さっさとしないと絶対に見つからないぞ、ゴミ」

「ゴミゴミうるさいな!確かに僕の名字は五味だけども。もっと優しい感じでって、そうじゃなくて!」


 妙に手を動かしながら説明する五味からは、もどかしさが伝わってくる。


「何なのコレ!?全く楽しくないよ!?これじゃあ、ただのボランティア活動じゃないか」

「でもコレが一番効率的で」

「確かに効率的かもしれないけど!一番つまらないよ!みんなで探すんじゃないの!?」

「探しているだろう。みんなで」

「確かにそうだけど、そうじゃないよ!コレじゃあ労力との釣り合いが取れてない!僕、今日は働かないから」


 何こいつ急にガキみたいなこと言い出しやがって……そうですか、と言えればそれはそれでこの話は終わりなんだろうが、コイツの運動能力を失うのは正直避けたい。


 最近は結構な依頼数を抱えてるからな。


 こんな依頼はサクッと終わらせたいのに。


 心で舌打ちをして、五味の方を見やる。


 すると五味は腕を組んで位張ったようなポーズをとりながらも、何かを期待するかのように俺の方をチラチラ見てくる。


「僕も最近、彼女作りに忙しくてさぁ。こんなことしてる暇、ないんだよねぇ」


 またしてもチラ見、そしてドヤ顔。


「まぁ?楽しいことならこーせーの方を優先するよ?でも、1人の作業じゃ、ちょっとね〜。僕の腰は重いからさ」


 うわ、うざ。


「幸生……コレはもう」

「だな……これ以上付き合うのは面倒だ」


 ゴミの方へと歩み寄るって、俺は右手を差し出した。


「なんか機会があったら、付き合ってやるよ。その彼女作りってヤツ。だから今は手伝ってくれ」

「え……でも、幸生は忙しんじゃ……」

「コイツ本当に白々しいな」

「うるさい。俊盛は静かにしてて。今いいところなの」

「忙しい、っちゃ忙しいが。まあ、いいんだ。今はお前が必要だ。お前は必要なゴミなんだ。ここで腐っていいようなゴミじゃない」

「……なんだろう、もう僕、泣きそうだよ」

「とにかく、そういうことだ。手伝ってくれ。五味が、必要なんだ」


 改めて冷静になると少し恥ずかしくなって、背を向けながら俺は言う。


「ふ、そうだな。五味もたまには役に立つ」

「ちょっと俊盛、最後の一言が余計だよ……まぁでも、やる気出たぁ。がんばるよ。彼女のためにも」

「まだできるとは決まってないがな」

「頑張って犬探して、姫乃を落とすよ。俊盛よりも先に探してやるから!」

「ははは、望むと所だな!俺の頭脳に勝てるものなどこの学園に存在しない!」

「なんだと!?僕の脚も負けてないからね」


 気がついたら2人のテンションは最高潮になって、今は五味が俊盛を追っかけ回している。


 いい歳した高校生が、夏休みのガキを連想させるくらいに笑いながら。


 夕陽に照らされているアイツらは、とても眩しくて。


 もしかしたら、これが俗に言う青春、なのかもしれない。


 誰かの為に、何かの為に、時間と感情を注ぎ込む。


 そんなものは、幻でしかないと言うのに。


 いつか傷つくと知っていながら、他人の為に行動をする様は滑稽こっけいだ。


「って、おーい。こーせ遅いぞー」

「早くしないと、オレたちが見つけてしまうぞ」


 気がついた時にはなんとか声が届くくらいに離れていた。


「それも悪くねーなー」


 だから俺は、俺の為に行動をする、感情と時間を注ぐ。


 2人の近くまで行くって背中を叩いた。


「置いてくな、ばか供」

「痛いよ、こーせー」

「置いて行った覚えはない」


 だから、コレは俺の罪だ。


 でも、罰を受ける気は無い。


 上手くやる。過去の俺を救う為にも。


 だから、俊盛、五味。


 今だけは、俺に利用されていてくれ。


「っしゃ、行くか!」


 俺の貼り付けた笑顔に返ってきたのは、元気よく天に突き上げられた拳だった。

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