第16話 カレーと間接キス
「じゃあ、虹絵……また夕方頃に」
「はい! 先輩! ……今日は私が作りますので、ご期待を!」
にこにことそう言う虹絵。
「うん、楽しみにしてるよ……」
朝、七時頃、俺はこうして虹絵の家を後にした。
外は雨が止み、晴れていた。
昨日は色々なことがあったな、と思う。
「……星奈さんと俺は……しちゃったのか」
どうしても最初にそれを思い出してしまう。
忘れようとしても、思い出してしまう。
初体験が星奈さん、これほど幸せなことがあるはずがない。
そんなことはわかっている。
けれど、俺にその幸せは不幸だ。
歩きながらスマホを見ると、西園寺さんからラインが来ていた。
『昨日はごめん。香澄とは仲直りできた?』
元々いえば西園寺さんが俺のところにやってこなければ俺は星奈さんとすることなどなかったのに。
なんで話しかけてきたんだよ。
西園寺さんが憎いと思ってしまった。
『はい、仲直りできました』
けれど悪いのは俺だ。
全ての元凶は俺だ。
すぐに既読がついた。
『それならよかったよ、本当にごめん』
『うん』
俺はスマホを消した。
そして、空を見た。
○
「先輩、来てくれたんですね! 今日はカレーを作ってみましたよ!」
午後六時頃、虹絵の家に入るや否や、カレーの匂いがした。
「……美味しそうな匂いですね」
どうやら虹絵は部活には所属していないらしい。
「えっへん! 虹絵ちゃん特製カレーを食べちゃったらそこらのカレーを食べれなくなりますよ〜!」
両手を腰にやり、ドヤる虹絵。
「俺、カレーには口がうるさいぞ」
なんだろうか、虹絵と一緒にいると星奈さんのことを不思議と忘れられるのだが。
どうなっているのだろうか。
「ええ……ちょっと、緊張してきました」
それになんで星奈さんを忘れるとこんなにも気持ちが安らぐのか。
「嘘嘘」
「ほ、本当ですよね!? あ、もう少しでできます!」
「楽しみだ」
あれ……。
ずっとある心のモヤモヤが消えていく。
気持ちいい。
「なんか、昨日より全身、元気そうでよかったです」
「虹絵のおかげだよ」
「まあ、私のおかげですよね!」
……どうなってんだ?
実際に虹絵の作ったカレーは美味しかった。
そこらのカレーでは太刀打ちできないほどに。
もしかしたら、人生で一番美味しいカレーかもしれない。
「ど、どうですか?」
俺はスプーンを置いて虹絵を見る。
「めちゃくちゃ美味しいです」
ホッとする虹絵。
「それはよかったです! 私、カレーが大好きなんですよ……子供っぽいですか?」
「いや、そんなことないよ。俺もカレーが好きだから」
本当はそこまでカレーは好きではない。
普通ぐらいだ。
「そうなんですか!? 奇遇ですね!」
「ですね」
笑顔で嬉しそうな虹絵。
なんでこんなにも心が安らぐのだろうか。
と、その時、プルルと虹絵のスマホが鳴り響いた。
「……友達から電話です。少し……電話してきますね」
と、消えていく虹絵。
美味しい。
でも……。
俺は虹絵がいなくなったのを確認した後に虹絵のカレーを見る。
……さらにこの虹絵のスプーンというスパイスを入れれば美味しくなるはずだ。
ふと、そんなことを考えた。
バカなことはやめろ、と言いたい。
でも──。
気づけばスプーンを交換していた。
「……うまっ」
案の定そうだった。
今日食べた、カレーは今まで食べてきたカレーの中でダントツ的に美味しかった。
「……間接キス」
やってることが気持ち悪いのに心が安らいでいく。
心の中のモヤモヤが消えていく。
すごく不思議ですごく奇妙だ。
「……俺って気持ち悪いよな」
清楚系美人な同級生を助けたら病んで「子作りがしたい」と寄ってくるようになった件 さい @Sai31
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。清楚系美人な同級生を助けたら病んで「子作りがしたい」と寄ってくるようになった件の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます