第15話 熱
「雨強いですね」
「ですね……あの、加藤さん。本当にありがとうございます」
「いいですって! まあ、事情を聞こうと思ってましたけど……聞かない方がいいやつですよねー?」
「そうしてくれると嬉しいよ……」
寒気がする。
完全に風邪ひいてるなこれ。
「あの……」
「?」
加藤さんは少し頬を赤くして目をキョロキョロとさせながら。
「今日、うちに泊まって行きませんか……?」
「え?」
すると、加藤さんはあわあわと焦り出して。
「ち、違いますよ!? いやらしい意味とかはないんですよ!? た、ただ……今日は雨が止みそうじゃないですし……それに先輩、お熱がありそうですから!」
いや、さすがに迷惑に決まっている。
俺は立ち上がる。
「ごめん、それは遠慮しておきます。さすがに迷惑のかけすぎですので……」
「いや、迷惑じゃないですよ……それに」
加藤さんは唇を尖らせて。
「私、一人暮らししてて寂しいですから……」
あれ……。
突如、ズシンと身体が重くなった。
めまいに襲われ。
「せ、先輩!?」
気づけば、転んでいた。
「だだだ、だから無理はダメって!」
「……今日は泊まらせてもらいます」
「はい!」
身体が重い、頭がズキズキする。
早く寝たい。
「ごめんなさい」
「いえいえ!」
加藤さんのベッドは甘い匂いがした。
○
目を覚ましたのはあれから約七時間が経過した深夜二時頃のことだった。
「……?」
下半身が重い。
見てみると加藤さんがベッドに寄りかかりながら寝ていた。
おでこに違和感を感じた。
濡れたタオルが置かれていた。
「ん……?」
と、目を覚ます加藤さん。
顔を上げ、目をこすりながら俺を見た。
「お、おはにょ……はっ!」
慌てて加藤さんは立ち上がって。
「すすす、すみません!」
何度も何度も頭を下げる加藤さん。
「いや、俺のほうこそ起こしてしまってすみません!」
「ね、熱の方は……」
「あ〜、もう大丈夫かと」
身体の疲れが取れていた。
本当に加藤さんには感謝しかない。
「ほっ、それならよかったです! あ、おかゆを作っておきました……よかったらどうですか?」
「本当ですか? ありがとうございます」
お腹が空いていた、ちょうどいいいただくとしよう。
よっと、立ちあがろうとすると。
「病人は無理しないでください! 私が持ってきますので!」
と、止めに入る加藤さん。
「じゃ、じゃあ……」
本当に親切な人だ。
初対面だと言うのに。
何か恩返しをしなくては。
「加藤さん」
「?」
「何か恩返しをしたいんですけど……」
「いや、いいですって!」
「お願いします! 何か……」
お粥を電子レンジに入れ、チンを始める加藤さん。
「何か……」
じゃ、じゃあ、とこちらを見る加藤さん。
「私、一人で寂しいと言いましたよね?」
「?」
「これから毎日、私と一緒に夕食をして欲しいんです!」
「……え?」
モジモジしだす加藤さん。
「ですから……いつも私、一人で朝と夕ご飯を食べていて寂しいんです……部活にも入ってませんし、そもそも友達も少ないので一人の時間が多いんです」
「わかりました」
特に断る理由がなかった。
俺も一人でいて寂しいと思うことがある。
「……俺、男だけど大丈夫?」
「はい! 先輩から悪そうな匂いはしないので!」
笑顔でそう言う加藤さん。
「加藤さんがそう言うなら……わかりました」
助けてくれた人なのだ、加藤さんが大丈夫と言うなら俺はそれに従うまでだ。
「あと……」
「ん?」
「下の名前で……虹絵って呼んで欲しいです」
「わかった、虹絵」
おかゆは全く味がしなかった。
けれど、美味しかった。
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