第14話 傘を差し伸べる者

 ギーギーと錆びた鉄と鉄が擦り合う音がする。


 俺はブランコに座りながらただ呆然たしていた。


 もう何が何だかわからなくなってしまった。

 何よりも星奈さんとシてしまった。

 

「くそ……くそぉ……」


 わかんねえよ……。


 目から流れているのが涙なのか雨なのかすらわからなくなってしまった。


 ふと、雨が止んだ。

 

 !?


 いや違う。

 目の前には雨粒が映っていた。

 ならこれは……。


「こんなところにいたら寒くて風邪ひいちゃいますよ!」


 女子の声がした。


 見上げるとそこには同じ高校の制服を着た一人の女子生徒が立っていた。

 青いリボンから一年だ。


 彼女が傘を差し伸べてくれたのだ。


「って、これじゃあ私が濡れちゃってるじゃん!」


 俺は立ち上がる。


「あ、大丈夫です……」

「いやいや、大丈夫じゃないじゃん! 顔真っ赤ですよ!?」

「え?」

 

 立ちくらみだろうか、眩暈がする。

 頭がボワーっと温かくなってきた。


 ああ、熱だこれ。


 フラフラする。


「おおお、おっと!」


 フラッと倒れかけた俺を支える女子生徒。


「大丈夫……じゃないですねこれ完全に……」


 女子生徒の胸が当たっている、なのに興奮しない。

 雨に濡れてブラジャーが見えているというのに興奮しない。

 

「一旦、うちに来た方がいいですねこれ」


 そこからの記憶はない。

 気づけば、女子生徒の家にいた。

 女子生徒はアパートに一人暮らししていた。


「お風呂……シャワーだけですけど入ってきちゃってください。風邪ひくって言うかもう引いてますけど……とにかく早く入ってきてください!」


 お風呂場に押され、俺はシャワーを浴びた。


 何してるんだろ俺……。


「着替えは私の中学の時のジャージですけどそれで勘弁してください! あと、パンツ見ちゃったんですけどそんなに気にしないでください。洗濯で洗うだけなんで! しばらくは下着なしになっちゃいます、ごめんなさい」


 本当に何してるんだろ俺……。


 次に気づいた時にはお風呂から上がり、ジャージを着ていた。


「お風呂、ありがとうございます」

「うん! 次は私が入る……あっ、私、加藤虹絵っていいます。富士原高校の一年生です!」


 やはり、後輩だった。


「俺は……柚木翔太郎です。富士原高校に通う二年生……」

「先輩だったんですか!?」

「え、あ、うん……」


 驚きの表情をする加藤さん。


「てっきり年下かと思いました! なんかそんな雰囲気がしたんです、すみません!」

「いや、いいよ……それより加藤さんも風邪ひいちゃうしシャワーに」

「そうですね! じゃあ、行ってきます! ……あっ、覗きしないでくださいよ〜?」

「するか!」


 ニシシ、と笑いながら加藤さんはお風呂場へと消えていった。


「あっ、そうです!」


 お風呂場から顔だけを出す加藤さん。


「ソファに座っててください! じゃあ!」

「お、おう……」


 ソファに深く座り、俺は考える。


 ──星奈さんのことが好きなのか?


 と。


 もうわかっている。

 俺は別に星奈さんのことが好きではないということを。

 

「……何してるんだろ、俺」


 加藤さんのジャージからはオレンジの香りがした。


 下腹部が興奮していた。


 どうやら身体は反応してしまうらしい。

 こうして反応するのに星奈さんとの時は……。

 

「どうなってんだよこれ」


 なぜ勃たなかったのか。

 それは好きではないからだ。


 スマホを見ると星奈さんから一枚の画像が送られていた。


 下着姿の星奈さんが俺の体液が入ったゴムを持っている写真だ。

 そこには『飲みましたけど苦くてまずいんですね』と文字が書かれていた。


『ごめん、今度は美味しいのを出します』


 そう返信した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る