第十九節 帰還、そして待っているから【蘇芳】

第四十一話 蘇芳

 はあ。

 久しぶりだ。

 鬱蒼とした緑。むせかえるような草いきれ。頭上には大きな満月。――清浄な空気。


 ……還って来たんだ……


蘇芳すおうさま?」

 声のした方を見ると、朱里あかりだった。朱里とあかねと、それから御側人おそばにんが何人かいた。


「蘇芳さま……!」

 朱里に抱きつかれる。懐かしい、朱里の匂い。

「……ごめん、朱里。……ただいま」

「おかえりなさいませ、蘇芳さま。――心配したんですよ!」

「うん、ごめんなさい」

「蘇芳さま?」

「なに?」

「やけに素直ですね?」

「もとからよ」

 と言いつつ、そうでないことは知っていた。


「蘇芳さま」

 今度は茜だ。

「――おかえりなさいませ」

 膝をついて、そう厳かに言う。

「ただいま、茜。――分かったから」

「え?」

 顔を上げた茜をまっすぐに見据える。


「あたし、分かったから。土地守りとしての使命が。……力の使い方も」

 茜の目が大きく見開かれる。

「――大変喜ばしいことです。さっそくですが、蘇芳さまのお力をお借りしたいことがございます」

「分かっているわ。――まず、館に戻りましょう。火の館へ」

 あたしはふわりと浮遊した。


 朱里や茜たちは驚きの表情を浮かべつつ、浮遊してあたしのあとに続いて館まで飛んでいく。

 今まではなかなか浮遊したりしなかったもんね。苦手だから、と。御側人おそばにんがいるときは、いっしょに飛んでもらっていた。


 ――でも、もう大丈夫。分かったから。――飛べる。

 指の先まで感じることが出来る。土地守りの力を。

 あたしは、満月の銀色の光の中を飛んだ。

 みんな、心配かけて迷惑かけて、ごめん。

 もう大丈夫だから。



 あきら

 あたし、待っているから――



 あたしは滲んだ涙をぐいと拭い、館へ向かって飛んで行った――

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