第十八節 これは別れじゃないから【彬】

第四十話 彬

「還っちゃったわね、蘇芳すおうちゃん」

「うん」

「大丈夫よ、あきら」と、母さんは俺のそばに寄って「彬が行けばいいから」と言った。

「でも、本家のここに入ること、難しいよ」

 時空の接点となっているこの場所は、青栁の屋敷の奥まったところにあった。

「……たぶん、大丈夫よ。……なんとなく」

 母さんは意味ありげに笑う。


 みんなで家に帰るべく玄関へと向かう。蘇芳がいなくなって、やっぱりさみしい感じが漂っていた。

 みなとが、例の水鏡のそばを通りかかったとき、水鏡が大きな満月と紅い髪の蘇芳を映し出した。

「無事に辿り着いたみたいね」と母さんは言った。

 俺は胸の奥がちりりと音を立てた気がした。


 でも、いいや。

 ほんとうに、今度は俺があっちに行けば。

 そうだよね? 蘇芳。

 これは別れじゃない。


 きっと、行くから。

 蘇芳、きみのいるところへ――

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