第三十六話 彬③

 俺は蘇芳すおうを校舎裏に連れて行った。ここなら、あまり人は来ない。


あきら、またみおさんとつきあうの?」

 蘇芳が思いつめたように言った。

「つきあわないよ。何言ってんの」

「だって……あたし、もういなくなるし……それに」

「それに?」


 蘇芳は俺の顔をじっと見て――キスをしてきた。

 蘇芳の唇が俺の唇に触れ――離れる。


「それに、最近、キスしてくれないし」

 と言って、蘇芳は泣き出してしまった。

 俺は蘇芳の涙を拭き、涙にキスをして、それから唇にキスをした。何度か啄むようなキスをしたあと、長いキスをする。


 あ、やばい。

 これは止まらないやつ。

 いやいや、ここ、学校だし。やばいやばい。

 俺は強い自制心でもって、蘇芳から離れ、美しいその顔を見つめ、それから彼女を抱きしめた。


「彬、大好き。大好きだから」

「うん、俺も好きだ――」

 抱きしめる腕に力がこもる。

「あのね」

「うん」

「続きはね」

「続き?」

「うん、いまの続きはね」と、ここで蘇芳は少し離れて、俺の顔を見つめ、「五色ごしきの地でね」と言った。

「……え?」

 言葉の真意が分からなくて戸惑う俺に、蘇芳はにっこり笑って、俺の耳元で囁いた。「今度は、……ね?」

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