第十六節 好きだから【彬】

第三十四話 彬①

「二週間後……そんなに早く……」


 俺と蘇芳すおうは、まきさんとまゆみさんに呼ばれ、本家に行き、蘇芳が還る日を告げられた。

 それは俺の予想よりも早い日にちで――あと二週間しか、蘇芳といっしょにいられないんだ。


「これは決定事項だ」

 まゆみさんの声は冷たく響いた。

 俺たちは、当日の手順や当日に至るまでの準備について聞き、帰途に着いた。

 俺は蘇芳と手を繋いで家まで帰る。

 このまま、蘇芳を連れ去りたい。

 でも、それは現実的な手段ではなかったし、また蘇芳もそれを望んでいないことがよく分かっていたので、口にすら出せなかった。


 公園を見ると、あのときの公園を思い出す。

 ――いま、キスしたり抱きしめたりしてしまうと、蘇芳を見送れなくなりそうだから、手を繋ぐまでにしていた。


 ほんとうは。

 ほんとうは、もっと触れていたい。もっとずっと。深く。

 だけど。


「あと、二週間か……」

 蘇芳がつぶやく。

「うん」

「あたし、二週間、ふつうに過ごしたい」

「……うん」

樹里じゅりのごはんを食べて、あきらといっしょに学校に行って、はるちゃんたちと遊んだり。家に帰って、樹里やまさきみなととおしゃべりをして。……彬とは……」

「俺とは?」

「……出来るだけ、いっしょにいたいな」

「うん」

 俺は握った手に力を込めて「俺も」と答えた。それが精いっぱいだった。

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