第十五節 青栁本家【槇と檀】

第三十三話 槇と檀

「満月と満月が重なるとき、なんだそうだ」とまゆみが言った。

「こちらの満月で、あちらも満月っていうこと?」とまきが言い、「そうだと思う」とまゆみが答えた。


 なるほど。

 そうして、時空が繫がるんだな、とまきは思う。

 しかし、緑青ろくしょうの土地守りの問題が片付いたと思ったら、すぐに朱火しゅかの土地守りの問題が起こり、休む暇もない、とまきは溜め息をついた。当主も楽じゃない、と思う。当たり前のことだが。


 まきは水鏡に手をやる。

 まきはこうして五色ごしきの地の様子を水鏡に映し出すことが出来た。

 この異能の力がまき青栁あおやぎの当主にした一つの要因だった。


 五色ごしきの地とこちらでは、時間軸が異なる。しかも一定の速度でずれているわけでもない。それはとても厄介な問題だった。ただ、基本的に、五色ごしきの地の方が時間はゆっくりと流れていた。


「どうだ?」とまゆみが言う。

 まゆみには異能の力はない。しかし、その分人心を把握する能力に長けていた。また、分析力や折衝力にも長けている。朱火しゅかの土地守りを本家で持て余していたのを、まさきの家に預け、あきらに面倒をみさせたのは正解だった、とまきはこころの中で考える。

 おかげで、蘇芳すおう殿は朱火しゅかの土地守りとしての自覚と真の力に目覚めたようだし、あきらの異能の力も増した。おまけに、五色ごしきの地との繋がり方まで分かった。――なかなかいい、とまきは薄く嗤った。


 まきは水鏡を見た。

 手をかざして、五色ごしきの地のいろいろな場所を見る。

 地震で倒壊した家々が映る。

 しかし、復興は順調に進んでいるようだった。恐らく蘇芳すおう殿が戻れば問題は解決するだろう。


 ふと画面にが見えた。

「……全く不思議な場所だな」

「え?」

「いや、なんでもない。独り言だ。満月は――」


 まきは水鏡を探り、それからこちらの世界の月暦を見た。

 月暦を見ながらまきは思った。

 五色ごしきの地を安定したものにする――それは同時にこちらの世界の安定でもある――ためには、朱火しゅかの土地守りを一刻も早くあちらに還す必要がある。しかし、開花した蘇芳の異能の力は非常に強力で、正直惜しいようにも思われた。だが、とりあえず今は還すしかあるまい。とはいえ。

 ……五色ごしきの地と行き来する方法が分かった。ずっと分からなかったのに。なんという幸運。


 まきは唇の端を少し上げた。

 自分の代で問題が多いことは頭の痛いことだったが、意外に青栁あおやぎを繁栄させる分岐点なのかもしれない。

 まきは長いストレートの黒髪をかき上げ、まゆみに向かって言った。


「二週間後の満月だ。その日、蘇芳殿を五色ごしきの地にお戻しする」

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