第十四節 あたしだって、いっしょにいたい。でも【蘇芳】

第三十一話 蘇芳①

 はるちゃんちの近くまで来たら、炎が上がっていた。

 はるちゃん!


 思い出す。

 学校で、ほとんど彬としか会話していなかったあたしに、「蘇芳すおうさん、バレーボールの練習、いっしょにしない?」って誘ってきてくれたはるちゃん。「ねえ、蘇芳ちゃんって呼んでいい? あたしのことは、はるちゃんって呼んでね」って言ってくれた。


 嬉しかった。

 はるちゃんと、はるちゃんの友だちのみっちゃんやレナちゃんたちとバレーボールの練習をすることで、みんなと仲良くなれたんだ。昼休みにバレーボールの練習をする時間が、いつしかとても楽しみになっていた。


 はるちゃん、バレーボール大会楽しかったよ。

 準決勝で負けちゃったけど、でも、みんなで一生懸命頑張ったから、すごくすごく楽しかったの。


 はじめての経験。

 誰もあたしを特別扱いしない。

 話しかけてくれるのは、土地守りだからじゃない。

 あたしだから。

 ねえ、そうだよね?


 あきら

 隣にいる彬をそっと見る。

 彬も、あたしが土地守りだから優しくしてくれるわけじゃない。分かるよ、そういうの。彬といっしょにいると居心地がいいんだ。


 ずっと、いっしょにいたかった。このまま。

 だけど。

 きっと、それはもう難しいことなんだ。


 あたしは炎をじっと見た。

 だいじょうぶ、出来る。

 炎を出すのはすぐに出来ても、消すことは実はそんなに得意じゃなかった。

 でも、出来る。

 あたしは手を組んで願った。

 火よ、消えろ。

 炎よ、すぐに消え去れ。

 大切なひとや物を焼いては駄目。

 大丈夫、消える。すぐに鎮火する。


 あたし、火の、炎の波動が感じられた。

 分かる。

 ああ、こうやってコントロールするんだ。


 家々を焼いている炎を消し去る。そのうねりを止め、消す。

 そして、地面の下にある、マグマ。これも分かる。


 ――五色ごしきの地に還らなくてはいけないことも、よく分かった。あたしがあそこにいること自体に意味があったんだ。


 頭が妙にすっきりとしていて、今まで見えなかったことが見えた。

 ずっと遠くまで見通せるようにも思えた。

 あたしは朱火しゅかの土地守り。

 そう生まれついたんだ。

 そして、変えられないんだ。

 彬を見る。

 今度は目が合った。あたしは少し笑って言った。


「はるちゃんち、大丈夫かな?」

 そう言ったものの、感覚で、既に大丈夫だと分かっていた。

 あたしは、はるちゃんもはるちゃんの家族も家も無事だと、感じていた。

 五感も土地守りの力も研ぎ澄まされていて、眩暈がしそうなほどだった。

 世界に満ちていることすべてが分かるかのようだった。


 彬が樹里に確認してくれた。

 やはり無事だった。

 はるちゃん、よかった。

 ほんとうによかった――

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