第三十話 彬②

 不安な気持ちを隠したまま歩き、目に入った公園に入って、ベンチに二人で座る。

 夜が迫って来る時間、公園には誰もいなかった。

 既に公園の街頭には灯りがともっていた。

 俺は蘇芳すおうと手を繋いだまま、しばらくそのまま座っていた。

 蘇芳の顔を見ることが出来なくて、靴の先を見ていた。

 言葉に出来ない。なんと言ったらいいのだろう? この気持ちを。

 下から見上げるようにして、蘇芳の顔を見た。

 蘇芳の顔はきれいで――泣きそうな顔をしていた。


 俺は蘇芳に顔を近づけ――キスをした。

 何度も。何度も。

 蘇芳の頭を手で寄せる。

 もう一度キスをして、それから蘇芳を抱き寄せた。


「蘇芳――好きだよ」


 そうだ。

 これが好きっていう気持ちなんだ。

 いなくなるかもしれないと思ったら、胸がかきむしられるような。押しつぶされるようなそんな気持ちになった。駄目だ。離れたくない。


 蘇芳を抱く腕に力をこめる。

 蘇芳も強く抱きしめてくる。

 離れたくない。

 自分の気持ちに正直でまっすぐな蘇芳。美しい紅い髪と紅くて強い光を持った瞳。


「好きだよ」

「――あたしも好き」


 だけど、「どこにも行かないよ。そばにいるよ」とは言えないんだね。

 そのことがどうしようもなく、切なく哀しく、俺の気持ちを押しつぶす。


あきら

 蘇芳がまっすぐに俺を見た。あの強い光で。

 それから、蘇芳から俺に唇を寄せた。


「彬。大好きだよ。――忘れないで」

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