第八節 さみしくなくなるんだね【蘇芳】
第十七話 蘇芳①
「いってらっしゃい」って見送られて、家を出る。
なんか初めてだ、こういうのも。
何もかもがおもしろい。
地面も土じゃないし、人も多いし、車とやらもたくさん走っている。いったい食べ物はどこで育てているんだろう? 田畑がない。森も山もない。かくかくの建物ととにかく急いでいる人間ばかり。みんなあんなに急いでどこに行くんだろう?
彬が四角いものを出して何かしているので、それ何? と聞いたら、「スマホ。通信手段かな」と言う。声のやりとりや文字のやりとりが出来るらしい。へえ。異能の力がなくても、みんなが便利に使えていいねって思う。そう言えば、
彬は溜め息をついてスマホをポケットにしまった。
どうしたのかな? と思ったけど、黙っておく。
そうこうするうちに電車に乗る。
何、これ! おもしろーい! 動いたー! こんなに大きい鉄の塊なのに!
「ねえ、これどうやって動かしているの? 何人かで力使っているの?」
「異能の力じゃないよ。電気で走っているんだよ」
「電気?」
「うーん、雷の力を集めたもの?」
「へえ」
がたん、と揺れて、思わず彬の袖を掴む。
彬は、あたしが立ちやすい場所に移動させてくれる。
最初は
あたしのお父さんとお母さん、生きていたら、やっぱり優しかったかな。
学校の最寄り駅に着いたら、髪の長い女の子が彬の方を見て、怒った顔をしていた。そして、あたしを見ると泣きそうな顔になって、走って行ってしまった。
「
彬は彼女を追いかけようとする。
「ちょっと。あたし、いっしょに行ってくれないと困るんだけど」
こんなところに一人で残されてもどうしようもないじゃない。
彬は溜め息をついて(溜め息ばかりついている)、「おとなしくしていろよ」とか言う。
うざい。
さっき、彬、優しい、と思ったの、撤回。
ああ、うざい。
何よ、偉そうに。ふんだ。
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