第十六話 彬③

 俺は暗澹たる気持ちでその後を過ごし、女子の痛い視線に耐えながら放課後を迎えた。みおが林さんたちと帰るのが見えて、少しほっとする。


 蘇芳すおうと駅まで歩く。

 蘇芳はなんでも珍しそうにして、いろいろ質問をしてきた。

 ……子どもみたいだな。みなとが小さいころのことを思い出す。あのときは俺も子どもだったけど。


「ねえ、あれ、何してるの?」

 蘇芳が言う方を見ると、通りから少し外れた先の場所で、中学生くらいの男の子が高校生くらいの男子数人に取り囲まれていた。あー、あれはカツアゲかな? 中学生はほとんど、泣きそうになっている。……まずいな。


 と思ってふと横を見たら、蘇芳が手に炎を出して飛ばしていた!

 炎はまっすぐにカツアゲしている高校生に飛んで行く。

 やばいだろ、あれ!

 俺は鞄の中にあったペットボトルを飛ばした。炎が高校生を焦がす前に、炎の上でペットボトルを破壊し、炎を消した。とりあえず焼け焦げは免れた、よかった。怪我人が出たら大ごとだ。

 カツアゲしていた高校生にはペットボトルのお茶がかかって、驚いた顔をしていた。ついでに、小石をぶつけておく。高校生はカツアゲをやめて、退散した。よかった。


 蘇芳と顔を見合わせる。炎を消したことを怒るかと思いきや、彼女は笑って言った。

「彬、やるね!」

「いや。気分悪いだろ、ああいうの」

「うん。あたしも弱いものいじめは好きじゃない。あたし、全然強くないけど、護らなくちゃって思っているんだ」

 それは土地守りだから? という疑問は口に出さずに「でも、燃やすのはまずいよ」と言った。

「うん、よく怒られてた。……止めてくれて、ありがとう」

 そう言って、蘇芳は――笑った。


 蘇芳のこんな笑顔、初めてみた。いつも怒っているような顔をしていたから。なんてきれいなんだろう。俺は思わず、その笑顔に見惚れた。

「……どういたしまして」


 まっすぐな視線。

 強い光を持つ瞳。

 俺だけにしか見えていないけれど、紅い髪が太陽の陽に輝いて、ほんとうに美しくて。

 今までの女の子と違うな、と思った。

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