第十三話 蘇芳②

 あたしは彼――あきらというらしい――といっしょに学校とやらに行くことになった。しかも、ここを出て(やった!)彬の家に行くらしい。

「ねえ」

「はい」

「学校、とやらはどんなとこ?」

「勉強をするところですよ」

「敬語、やめろ。うざい」

 火の館やさっきの青栁本家を思い出してしまう。みんな丁寧だけど、その丁寧さがあたしには苦しい。


「……同じ年の人間が集まって、勉強したり運動したり、いろいろするところだよ」

「ふうん。楽しい?」

「楽しいです、いや、楽しいよ」

「ふうん」

 車とやらに乗って移動する。便利だな。力を使わないで移動出来るなんて。

 あたしは流れる景色を眺めた。

 不思議なところだ。

 森はなく、ごちゃごちゃかくかくしている。人間も多いけれど、金属質の物が多い。金の力がもっと使えたら、ここだといいかもしれない。


 彬の家に入ったら、黒い髪と瞳の緑青ろくしょうがいた。

 げ。

「いらっしゃい!」

 黒い髪と瞳の緑青ろくしょうはそう言って、にっこり笑った。

 あ、緑青ろくしょうより、年をとってる。……なんだか、優しそう。醸し出す雰囲気が違う。

 わたしのことは、樹里じゅりって呼んでね、と黒い髪と瞳の緑青ろくしょうは言う。

「うん、……じゅり」

 樹里はまたにっこり笑った。

 あたしはなんだか初めて、ほっとした。


「いらっしゃい」

 今度は年をとった柊護しゅうごが現れた。まさき、というらしい。彬の父親の。

 柊護は彬や柾の先祖にあたる。だから似ていて当たり前なんだけど、ほんとうにそっくりだ。でも。

「柾の方が、柊護に似ている」

「え?」

「――なんでもない」


 柾の方が柊護に似ている、と思うと、二人が夫婦でいることがなんだかとてもしっくりきた。しかも、柾も樹里も五色ごしきの地の柊護や緑青の樹里よりも、年を重ねているせいか、あたしはいやな気持ちがまったくしなかった。それどころか、二人ともとても優しくやわらかで、二人といっしょにいるとあたしまでなんだかあたたかな気持ちになった。


「ここにいる間は、うちだと思って過ごしてね」って樹里は言う。

 うちってどんな感じが分からないけれど、たぶん、あったかい感じ?

「樹里ちゃんは娘が欲しかったから」と柾が言って、樹里が「そうなのよ! 蘇芳すおうちゃん、来てくれて嬉しいわ!」と笑う。


 樹里はあたしにいろいろ教えてくれる。お料理も教えてくれた。――楽しかった。

 娘みたい? なのかな?

 娘って、こんな感じ? ――よく分からないけれど。

 夕餉ゆうげはみんなで食べた。こんなふうに食べるのは初めてだった。

 海苔にごはんを乗せて好きな具を乗せて、包んで食べる。おいしい!

 ごはんを食べている間に、言葉が行き交う。

 みんなでこうやって食べると、ごはんっておいしいんだな。


「蘇芳ちゃん、食べてる? おいしい?」

 樹里が言って、あたしが頷くと、「よかった!」と樹里が笑う。

 ……おかあさんって、こんな感じ? ――よく分からないけれど。

 あたし、でも、こっちの樹里は好き、みたい。

 ほっとするから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る