第六節 お母さんって、こんな感じなのかな?【蘇芳】
第十二話 蘇芳①
あたしはどうやら、
しかもどうやらここは、かつての
あたしは丁重に扱われた。
土地守りだから。
いろんな人があたしの面倒をみてくれる。ここの世界のことも教えてくれる。
ここは、五色の地とはかなり違う世界だと思った。
いいな、と思ったのは、この世界には異能の力は基本的にはないということ。だから、異能の力は秘しておかねばならないし、異能の力の有無で何かが決まるわけじゃない。
でも。
ここも、しょせん、火の館と同じだった。
「蘇芳さま、朝ごはんのお支度が整いました」
「蘇芳さま、お召し替えの時間です」
「蘇芳さま……」
ああ、ほんとうにうざい。うざくて、口を利く気にもなれない。
部屋でぼんやりしていたら、「蘇芳殿、ちょっとよろしいかな?」と、五十がらみの男が入ってきた。誰だったかな? まゆみ?
黙っていたら、そいつは話し出した。
「蘇芳殿、今後、いかがいたしますか?」
「……」
「あなたさまを、向こうにお返ししようと努力はいたしましたが、何分どのような方法でこちらにいらしたのかも分からず、……申し訳ない」
「……」
「……そうしますと、しばらくこちらにいらっしゃることになります。ですから、何かご希望があれば、と」
「……あたし、ふつうの暮らしがしたい」
「え?」
「だーかーら! 下々の民がする生活がしたいの! ここはいや、とにかく!」
「いや、とおっしゃられましても」
「とにかく、いやなの! いやだったら、いや!」
「あたし! この間教えてもらった、学校とやらに行ってみたい! 学校行く!」
「……分かりました」
五十がらみの男(たぶん、まゆみ)は、そう言って頭を下げると退出した。
「ふん」
ああは言ったものの、ほんとうに叶えられるとは思ってみなかったのである。
*
誰かが来る気配がして、あたしは部屋をそっと抜け出して(抜け出すのは得意!)門の近くまで行った。
あ!
……なんか、変な服着てるけど、柊護!
柊護、どうしてここにいるんだろう? 迎えに来てくれたのかな?
あたしは嬉しくなって、門へ向かう。
「しゅう」ご、と声をかけようとしたら、独り言が聞こえてきた。
「だから、結局よかったんだよな」「まあ、理由はそれだけじゃないだろうけど」
――違う、柊護じゃない。すごくよく似ているけれど。
「何ブツブツ言ってんのよ」
あたしはそう言って、彼を睨みつけた。柊護が迎えに来てくれたのかという期待を裏切られたから、なんだかすごく腹が立ってしまった。
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