第四節 満月の夜に【蘇芳】
第八話 蘇芳①
部屋に戻ったら、早々に
「
「何?」
「あのような振る舞いは、いけません。
「ふん」
「
あたしは茜から視線を逸らす。
茜は御側人頭を務めるくらいだから、異能の力が強い。
以前、茜が
「蘇芳さま」
今度は返事をしなかった。
「この
あたしには関係ない。
だって、特別な力なんてないんだから。
「もういいから、下がって、茜! うるさい!」
「蘇芳さま」
「うるさい! 下がれ!」
茜が下がる気配がした。
自分でも、このイライラする気持ちをどうすることも出来ないでいた。
満月が美しかった。
大きな大きな満月。
そう。
この世界は異能の力で成り立っている。能力が高くないと、上へは行けない。
あたしって、何だろうなって思うんだよ。
さっき会った
力が強いって。
属性の木の力はもちろん、恐らく土の力も水の力もあるだろうって。なんでも、緑青の土地はあっという間に豊かになっていったらしい。樹里がいる恩恵はあたしも感じていた。
「あー、すごいすごい」
あたしには出来ません。
あたし、なんでここにいるんだろうなあ。あたしいても、意味ないよね?
ふいに満月に誘われた気がした。
あたしはこっそりと館を抜け出すことにした。
館を抜け出して、月夜の中を歩く。
夜、一人で歩くのって、なんだかわくわくする。
夜の中で樹々を見る――確かに、緑が元気になっている。ああ、
山の境界まで来て、少し悩む。
山を下りちゃおうかな?
あたしはほとんど山を出たことがなかった。山の下に下りるときは、必ず誰かといっしょだった。
それに、あたしは浮遊があまり得意ではない。
この夜、山を下りるなら飛ばないと無理だ。山道はあるにはあるが、ほとんど獣道だった。何しろ山に来る人間は飛べるものがほとんどだからだ。
あたしはまた溜め息をついた。そして、意を決して飛ぶことにした。
ふわり、と身体が浮く。
月光が美しく、まるであたしを包み込んでいるように感じた。
あたしはそのまま山を下って行った。なんだか、出来るような気がしたのだ。この、大きな満月の夜なら。
満月は黄みがかった銀色に輝いて、群青色の夜に月光をミルク色に溶かし出していた。
月の光があたしに力をくれている気がした――ほんとうに、そうならいいのに。
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