第三節 あたしは十六歳にして、既に晩年だった【蘇芳】

第六話 蘇芳①

 毎日がつまらなかった。


蘇芳すおうさま」

 ああ、うざい。うざいから、答えない。

「蘇芳さま」

 聞こえないふりをして、窓から外を見ている。

「蘇芳さま!」

 肩を叩かれて、振り向く。朱里あかりだ。

「なに、朱里」

「そろそろ、昼餉ひるげの時間ですよ」

「いらない、お腹すいてない」

「そう言わずに」

 朱里が困っているのが分かるので、とりあえず立ち上がる。

 あーあ、つまんない。


 あたしは十六歳だ。ほんものの。

 ほんもののって、わざわざ加えたのは、土地守りって、みんな十代後半で成長が止まるから、どれだけ年をとっていても、みんな同じくらいの年齢に見えるから。

 でも、あたしはまだ十六年しか生きていない。

 だけど、既に晩年だ。

 なんなの、この生活。退屈で退屈で死にそう。

 もうおばあさんだよ。老年だよ、老年。

 あたし、朱火しゅかの土地守りなんだって。

 なんだよ、それ。意味分からないんだけど。


 あたしは、朱火しゅかの土地の真ん中にある山のてっぺんの火のやかたにいる。生まれたときから、ずっと。

 土地守りの館にいる人間ってさ、みんな何かしら土地守りの血を引いているんだよ。あ、でも、ただ引いているだけじゃだめ。異能の力がないと。

 朱里はあたし付きの御側人おそばにんで、やはり異能を持つ。朱里は炎が出せた。


 土地守りって、何なのって思う。御側人おそばにんだって炎が出せる。あたしと何が違うわけ? 

 あたしはたぶん、土地守りとしては力が弱い。

 土地守りの力には属性がある。朱火しゅかなら火、黄王こうおうなら土、白金はくきんなら金、緑青ろくしょうなら木、そして黒玄こくげんなら水、というように。たいていの土地守りは、自分の属性の力と他の力も合わせ持つ。黄王こうおうには全部の力を持つものがいたって聞いたことがある。


 でもさ、あたし、火しか使えないんだよ。金は少し使えるかも? くらい。つまり、ほとんど使えない。

 御側人おそばにんの朱里といっしょ。

 土地守りっていったい何? 意味ないじゃんって思ってる。

 この館に縛り付けられて、全然身動き取れない。

 つまんない。

 つまんない、つまんない。

 退屈で退屈で、もうどうにかなってしまいそう。


 館を抜け出しちゃおうかな。

 朱里の朱色の髪を見ながら思う。

 すると、あたしの思惑を見透かしたみたいに、朱里が振り向いた。

「今日は柊護しゅうごさまがいらしていますよ」

「え? ほんと?」

「ええ」

 あたしは走り出した。

「蘇芳さま、お待ちください!」

 背中に朱里の声が届く。でも、あたしは走るのを止めない。だって、柊護に会えるの、久しぶり。嬉しいな。

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